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読み解き 特集 2026年7月25日(土) 6:00

データセンターの熱を、街は使えるか

AIが生む電力需要と廃熱。データセンターがガス業界の需要と役割をどう作り替えるか

約10分 ガスみらい通信 編集

データセンターといえば、まず「電気を大量に食う施設」として語られてきました。AIの普及がその印象をさらに強めています。ところが最近、別の顔に政策の光が当たり始めました。その施設が吐き出す大量の熱を、どう始末し、どう使うか——という顔です。今回の特集は、この一件を入口に、データセンターという急成長する存在が、ガス業界の需要と役割をどう作り替えていくのかを掘ります。単発のニュースの読み解きではなく、構造として見ていきます。

背景 — なぜ今、これを掘るのか

まず、規模の話から。IEA(国際エネルギー機関)は2025年4月の報告書で、世界のデータセンターの電力消費量が2030年までに約9,450億kWhと2024年の水準から倍増し、これは現在の日本の総電力消費量をわずかに上回る規模になると見込んでいます。国ひとつ分の電力が、数年で新たに積み上がる計算です。

出典:日本原子力産業協会「データセンターの電力消費量 2030年に日本超え IEA報告書」

電気を大量に使うということは、その多くが最後には熱として出てくるということでもあります。増える消費電力の裏側で、捨てられる熱も同じだけ増えていく。この「熱の側」に、政策が動き出しました。

東京都は2026年5月、「データセンター廃熱利用実装促進事業」の公募を開始しました。サーバー性能の向上に伴って増える廃熱を地域で有効に使うモデルを作ろうという事業で、都は採択した事業者と協定を結び、令和8・9年度の合計で上限5.2億円の経費を負担します。狙いは、省エネ化と地域への還元を両立させる先進事例を作り、その有効性を検証することにあると説明されています。背景には、2050年に向けて都が掲げるゼロエミッションとエネルギー効率の最大化という文脈があります。

出典:東京都「データセンター廃熱利用実装促進事業の公募を開始します」(2026年5月11日)

この事業に、東京電力ホールディングスが2026年7月16日付で採択を公表しました。報道によれば、東電はサーバーが出す熱を近隣の工場や温浴施設などで再利用することを想定しており、事業期間は2028年3月末までとされています。

出典:日本経済新聞「東京電力、データセンターの廃熱利用で都から支援 最大5億円」(2026年7月)

電力会社が、熱の面的利用という——歴史的にはガス側が得意としてきた——領域に足を踏み入れた。この一件は、データセンターをめぐってエネルギー会社の役割が動き始めた兆しとして読めます。以下、三つの論点で掘っていきます。

論点① データセンターは「熱の出し手」になる

ここで効いてくるのが、電気と熱の性質の違いです。

電気は送電線に載せて遠くへ運べます。だから発電所は需要地から離れていても成り立つ。ところが熱は、そう遠くへは運べません。配管が延びるほど温度は逃げ、割に合わなくなります。つまり廃熱を「使える資源」に変えられるかどうかは、その熱を欲しがる先が近くにあるかどうか、という徹底して地域的な条件に縛られます。データセンターの隣に、熱を使いたい工場や施設があるか。この立地の問題を抜きに廃熱利用は語れません。

もう一点、熱には「質」があります。データセンターの廃熱は比較的低い温度で出てくるため、そのまま高温を要する用途には回しにくく、給湯や暖房、農業といった低温側の需要と噛み合わせる工夫が要ります。量があっても、使い道は温度で選り分けられてしまう。

この「熱をどう面的に配り、需要と噛み合わせるか」という問いは、実はガス業界がずっと向き合ってきたものです。コージェネレーションで電気と熱を同時に取り出し、その熱を建物や地域で使い切る。複数の建物にまたがってエネルギーを融通する地域熱供給。総合エネルギー化の解説章で整理したとおり、都市ガス事業者は「熱を無駄なく面で使う」ノウハウを事業の柱のひとつに育ててきました。データセンターの廃熱は、その土俵にそのまま乗ってくるテーマです。

論点② データセンターは「質の高い電気」を求める需要家

熱の出し手であると同時に、データセンターはまず巨大な電気の需要家です。しかも、ただ大量というだけでなく、24時間止まらない安定した電源を求めるという特徴があります。演算が一瞬でも落ちれば損失に直結するため、変動する電源だけでは足りず、いつでも一定量を供給できる「動かせる電源」を欲しがります。

この性質は、電源構成の議論に跳ね返ります。太陽光や風力は発電量が天候で揺れるため、それだけでデータセンターの土台を賄うのは難しい。安定して出せる電源をどう確保するかが問われます。IEAによれば、海外ではIT企業が合計2,000万kWを超える小型モジュール炉(SMR)への出資を計画しているとされ、これは巨大需要家が自ら「動かせる電源」を囲い込もうとする動きの表れです。

日本の当面の現実解に目を戻すと、ここにガス火力やガスコージェネレーションの出番があります。再生可能エネルギーの変動を埋める調整力として、あるいはデータセンターの近くに置く自家発電の熱源として、ガスは「必要なときに動かせる」役回りを担い得ます。ガスと電力・系統の解説章で見たとおり、脱炭素と安定供給の両立を当面つなぐ現実的な選択肢として、ガス火力の柔軟性はなお意味を持ちます。データセンターは、その柔軟性を最も必要とする種類の需要家です。

論点③ 役割の垣根が溶け、「面」で設計する時代へ

この二つの顔——熱の出し手であり、質の高い電気の需要家である——を重ねると、エネルギー会社の役割の境目がぼやけていくのが見えてきます。

今回、都の廃熱利用事業で先に動いたのは電力会社でした。熱の面的利用はガス側が得意としてきた領域です。逆に、データセンターへの安定電源の供給という電気の話には、ガス火力やコージェネというガス側の資産が関わってくる。電力とガスの事業者が、互いの土俵に入り込みながら、同じデータセンターという相手に向き合う構図です。ガス事業者にとってのデータセンターは、「電気と熱を大量に使う需要家」であると同時に「熱の出し手」でもあり、さらに「動かせる電源の供給先」でもある、という何重もの顔を持った相手になります。

だとすれば、勝負どころは個別の商談ではなく、立地と地域を含めた「面」の設計に移ります。需要構造の解説章で整理したように、ガスの需要はもともと用途と地域の組み合わせで決まってきました。データセンターの新設地に、電気をどう安定供給し、出てくる熱をどこの誰が引き取り、その全体をどう地域に還元するか。この絵を早い段階で描ける事業者が、電気の売り手にも、熱の受け皿の設計者にもなれます。土地が決まってから熱の使い道を探すのでは、たいてい間に合いません。

反対から見ると

ここまでを、ガス業界にとっての機会として描いてきました。単純化を避けるために、反対側からも見ておきます。

第一に、廃熱利用はまだ実証段階です。今回の都の事業は有効性を「検証する」ためのモデル構築であって、どこでも成り立つと確かめられたわけではありません。回収した熱の温度と量、それを運ぶ設備の費用、引き取り手が払える対価——この採算がどう出るかは立地次第で、ひとつの採択事例から一般化はできません。

第二に、データセンターの電源が中長期にどこへ向かうかは見通せません。政策の圧力は脱炭素電源に強くかかり、IEAは今後5年間で世界のデータセンターの電力需要の伸びの半分を再生可能エネルギーがカバーすると見込んでいます。SMRや原子力への期待も大きい。ガス火力の役割を「当面の現実解」と書きましたが、その「当面」がどれだけ続くかは誰にも断言できません。過渡期の調整役に投資を厚くしすぎれば、座礁資産のリスクと背中合わせになります。

第三に、より大きな流れとして、電化と省エネはガスの需要を構造的に細らせる方向に働きます。データセンター一つの機会が明るく見えても、家庭や産業の脱ガスが進めば、業界全体の絵は別の色をしているかもしれません。

第四に、データセンターは歓迎される需要家ばかりとは限りません。あまりに大きな電力を一点で消費するため、地域の系統を逼迫させ、他の需要を圧迫する懸念もあります。「巨大な需要をどう受け入れ、どう御すか」という、機会とは逆向きの政策論もまた進んでいることは、忘れないでおきたいところです。

経営への問い

データセンター誘致の議論は、長らく「電力をどう確保するか」に集中してきました。そこに「出てくる熱をどこで使うか」という問いが並び始め、さらに「どんな電源で支えるか」という問いが絡んでいます。三つの問いは本来ひとつづきです。

問われるのは、この三つを別々の商談としてではなく、一枚の絵として設計できるかどうかです。自社が持つコージェネや熱供給の設備・ノウハウ、ガス火力の柔軟性、そして地域との関係を、増えていくデータセンターとどう結びつけるか。近隣にどんな熱需要と電力需要があり、誰と組めば受け皿になれるのか。電気の商談としてだけデータセンターを見ていると、熱の側の機会は気づかないうちに隣の事業者へ渡っているかもしれません。捨てられていた熱に値札がつくとき、その値札を書くのは誰なのか。

まとめ

  • 世界のデータセンターの電力消費量は2030年までに約9,450億kWhへ倍増する見込み(IEA)。増える電力の裏で廃熱も増え、東京都の廃熱利用事業に東京電力HDが採択された(2026年7月16日公表、令和8・9年度合計で上限5.2億円)
  • 熱は電気と違って遠くへ運べず温度にも制約があるため、廃熱の活用は近くに需要がある地域に限られる。「熱を面で使う」のはガス業界が育ててきた土俵で、データセンターは電気の需要家であると同時に熱の出し手にもなる
  • データセンターは24時間の安定電源を求める需要家でもあり、再エネの変動を埋める調整力としてガス火力・コージェネに当面の出番がある。電力とガスの役割の垣根は溶けつつある
  • ただし廃熱利用は実証段階で採算は未証明、電源はSMR・再エネへ向かう圧力も強く、電化・省エネはガス需要を構造的に細らせる。機会と留保の両方を見たうえで、電気・熱・地域を一枚の絵で設計できるかが問われる