トップ読み解き / 制度・再編
読み解き 制度・再編 2026年8月5日(水) 6:00

やめるにも、手続きが要る時代へ

改正電気事業法が成立。整備を促す条文の隣に、休止と休廃止の条文がある

約6分 ガスみらい通信 編集

自由化は、入口を開ける仕事でした。誰が入ってこられるかを決め、参入の条件を整える。7月に成立した改正電気事業法を読むと、手が入っているのは反対側です。作ることを促す条文の隣に、休むこと・やめることの条文が並んでいます。

① いま、何が起きているのか

「電気事業法の一部を改正する法律案」が、2026年7月17日の参議院本会議で可決され、成立しました。経済産業省が7月21日に公表しています(担当は資源エネルギー庁 電力・ガス事業部)。

法律の趣旨として挙げられているのは、国際的なエネルギー情勢の変化と、DX・GXの進展による国内の電力需要の増加です。そのうえで、電力の安定供給とエネルギー安全保障のために、大規模な送電線・電源の整備促進、電気事業の安定的・持続的な発展に向けた環境整備、太陽電池発電設備等の安全性向上を図るとしています。

中身は大きく三つです。

一つめは、整備の促進。経済産業大臣が大規模電源の整備計画や、一般送配電事業者等の地域内送電線等の整備計画を認定し、電力広域的運営推進機関(電力広域機関)が財政投融資等を活用して整備資金を貸し付ける仕組みが設けられます。地域間送電線等についても、貸付けの原資を財投等で拡充します。加えて、供給エリアをまたぐ卸電力取引で生じる差額——値差収益を国庫納付とし、電力広域機関への補助を通じて送電線の整備等に活用するとしています。

二つめは、事業環境の整備。小売電気事業者の登録の取消事由に、一定期間の休止等が追加されます。もう一点、現行の翌日市場に加えて、中長期市場や需給調整市場を開設する卸電力取引所を、経済産業大臣が指定・監督できるようになります。

三つめは、太陽電池発電設備等の安全性向上。支持物等について工事前に第三者機関(登録適合性確認機関)が技術基準への適合性を確認する対象とし、製品・施工不良などで設置者だけでは原因究明が難しい場合に、製造・輸入販売事業者や工事業者へ協力を求める措置を設けます。

そして、見出しにはなりにくいものの効いてくる条文がもう一つあります。大規模発電事業者が大規模電源を休廃止する際、一般送配電事業者等と事前に協議することが定められました

施行は、一部の規定を除いて公布後9か月以内です。

出典:経済産業省「『電気事業法の一部を改正する法律案』が成立しました」(2026年7月21日)

② なぜ、これが重要なのか

供給力は、誰かが総量を決めているわけではありません。個々の事業者が、それぞれの採算で「建てる」「動かし続ける」「畳む」を決めた結果として、後から総量が判明します。一社ずつの判断がすべて合理的でも、足し合わせた総量が必要量に届く保証はどこにもない。自由化された市場が構造的に抱える弱点は、ここにあります。

今回の改正は、その弱点の両端に手を掛けています。片方の端では、認定と資金の貸付けで「建てる」を後押しする。もう片方の端では、休廃止の事前協議と登録の取消事由で、「畳む」「休む」に手続きの時間を挟む。増やす政策と、減り方を管理する政策が、一つの法律に同居しました。

原資の話も見落とせません。整備には金が要ります。認定・財政投融資の活用・値差収益の国庫納付という組み合わせは、必要な設備の立ち上げを料金の引き上げだけに背負わせない配管を、法律の形で引いたものと読めます。ただし財投の活用は貸付けであり、返済を前提とする資金です。補助金と同じ意味で「誰かが負担を引き受けた」と読むのは早い。ここは分けて考える必要があります。

③ だとすると、業界はこう動く

第一に、電気を併売する都市ガス事業者にとって、小売電気事業者の登録の意味が変わります。登録の取消事由に一定期間の休止等が入るということは、「取ってはあるが動かしていない」状態が、そのままでは続けにくくなるということです。地域や商材によっては、様子見のまま登録だけ維持しているケースもあるでしょう。総合エネルギー化を掲げて電気に足を伸ばした事業者ほど、自社の登録が実体を伴っているかを棚卸しする実務が発生します(総合エネルギー化の解説章)。

第二に、電源を持つ事業者は、休廃止判断のカレンダーが変わります。老朽化した設備を止める判断は、これまでも系統への影響を見ながら進められてきましたが、事前協議が法律に位置づけられると、決めてから動かすまでに要る時間の見積もりが変わる。設備更新計画や修繕投資の意思決定は、この所要時間を織り込んだ形に組み替わっていくはずです。

第三に、市場との付き合い方です。中長期市場や需給調整市場を開設する取引所が大臣の指定・監督下に入るということは、これらの市場が「あれば使う場」から「制度に位置づけられた場」へ移るということでもあります。電源やコージェネを持つ事業者にとって、どの市場でどう収益を立てるかは、より制度の前提に沿った検討になります(ガスと電力・系統の解説章)。

第四に、ガス側から見た対比があります。導管は、維持・更新を続けなければならない資産です。その原資は基本的に託送料金、つまり利用者の負担から回ってきます(導管と託送の解説章)。今回成立したのは電気事業法であって、ガス導管に同じ資金ルートが用意されたわけではありません。ただ、インフラ整備の原資を料金の外側にも求める発想が法律の形をとった事実は、導管の更新原資を議論するときの参照点にはなります。

留保を置きます。現時点で確定しているのは枠組みまでで、認定の基準や協議の具体的な進め方は、今後の政省令や運用に委ねられる部分が大きい。施行も一部の規定を除いて公布後9か月以内であり、明日から実務が変わるわけではありません。

④ 経営として、何を問われるのか

自社が抱えている登録・設備・権利のうち、「いつか使うかもしれない」を理由に休ませているものは、いくつあるでしょうか。

数えたことがある会社は、あまり多くないはずです。持ち続けるコストは小さく、手放す判断には説明が要る。だから残る。これまでは、それで困りませんでした。

その「残しておく」が、制度の側から棚卸しを迫られる。数え上げるのは、外から言われてからでも間に合いますが、順番としては先のほうが楽です。

まとめ(3行)

  • 改正電気事業法が2026年7月17日に成立。大規模送電線・大規模電源の整備促進、事業環境の整備、太陽電池発電設備等の安全性向上が柱で、施行は一部を除き公布後9か月以内(経済産業省・2026年7月21日公表)
  • 整備側では認定・財政投融資の活用・値差収益の国庫納付という原資の道筋が引かれ、その反対側で小売電気事業者の登録取消事由に一定期間の休止等が追加、大規模電源の休廃止には一般送配電事業者等との事前協議が定められた
  • 電気を併売し電源を持つ都市ガス事業者にとっては、登録・設備の「休ませている状態」を点検する実務が生じる。運用の詳細は今後の政省令待ち
体系で理解する ─ 業界のしくみ
CH6 この記事の背景は、解説シリーズ第6章で体系的に学べます。 第6章 料金と自由化のしくみ 基礎シリーズ|約6分 この章を読む →