2017年4月の小売全面自由化から9年余り。制度をつくった側が、その答え合わせを文書にしました。8月10日の審議会に出された案には、成果の一覧に続けて、これまで正面には置かれていなかった言葉が並んでいます。
① いま、何が起きているのか
2026年8月10日、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会の下にあるガス事業環境整備ワーキンググループの第12回会合が開かれ、資源エネルギー庁から「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)」が示されました。
この検証には、もともと期限がありました。2017年4月に施行した小売全面自由化については2021年6月にとりまとめ結果が公表済みで、その際、2022年4月に施行した導管部門の法的分離後の状況についても2027年3月までに検証を行うこととされていた。今回はその期限に向けた、改革全体を対象とする検証にあたります。
成果として資料が挙げているのは、たとえば次のような数字です。
- 新規参入者が全体販売量に占める割合は約19%
- 経過措置料金規制は、資料の記載で「2026年10月時点」において、対象だった12社のうち残置は3社
- ガス小売事業者が調達するLNGのうち、長期契約の割合は9割程度を維持
- 非耐震管対策への投資を継続し、耐震化率は2025年3月末時点で93.1%
- 原料費の変動でガス料金単価は大きく上下するものの、原料費以外の㎥あたり単価は減少傾向
そのうえで資料は、これからの方向性をこう書いています。持続可能なガスシステムを構築していくためには、「これまでの市場競争や効率性の追求が中心の視点に加えて」、事業の持続性の確保や関係者による協創といった視点から対応を進めていくことが重要である、と。
対応方針として並ぶ項目も具体的です。供給計画・製造計画の期間を原則3年から一律5年に延長する。様式に合成メタン・バイオガス・水素の需給見通し、大型需要家数・スマートメーター取付数を追加する。都市ガスの供給計画・製造計画の換算熱量を46MJ/㎥から45MJ/㎥に変更する。LNG基地を所有する主要な都市ガス事業者のLNG調達計画と受入・払出・在庫予定量を、非公開を前提に2週間に1度、定期的に調査する。
そして託送料金です。原価に消費者物価および雇用者所得等の変動見込み(エスカレーション)を算入する。変分改定の対象費用に水道料と占用料を追加する。一般ガス導管事業者の事業報酬率の算定方法を見直す。変分改定に係る標準処理期間を4月から2月に短縮する。
これらの制度改正や指針の見直しは、2026年度中を目途に実施するとされています。
出典:資源エネルギー庁「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)の概要」(第12回 ガス事業環境整備ワーキンググループ・2026年8月10日)
② なぜ、これが重要なのか
自由化の制度は、長いあいだ一つの方向に向かって積み上げられてきました。参入の壁を下げる、ネットワーク部門の中立性を高める、料金を抑える。どれも「利用者にとって安く、選べるように」という一本の物差しで説明がつきます。
今回の案が書き足したのは、その物差しの隣にもう一本を置くという判断です。「加えて」という一語が示すとおり、前の視点は否定されていません。ただ、加わった側の中身は、抽象論ではなく制度の細部として書かれています。
託送料金の原価に物価と雇用者所得の変動見込みを織り込むというのは、上がったコストを後から取り返すのではなく、上がる前提で最初から原価に入れるということです。変分改定の標準処理期間を4月から2月に縮めるというのは、費用の増加が料金に反映されるまでの時間を短くするということ。事業報酬率の算定方法の見直しも、同じ方向にある論点です。
いずれも、需要家の負担が軽くなる方向の変更ではありません。資料自身、規制料金について「需要家負担の抑制の観点と、事業の持続性の確保の観点のバランスの下で制度設計していくことが必要」と書いています。バランスという語が出てくるのは、片方だけでは決められなくなったときです。
背景として挙げられているのは、人口減少による担い手確保の課題、物価や人件費の上昇、そして需要の形の変化です。導管の総延長は延伸傾向を続けている一方で、気温の上昇や一世帯あたりの人数の減少、高効率ガス消費機器の普及などにより既存の小口供給量は減少傾向にあり、年間消費量は全体として概ね横ばい。伸びない販売量で、延び続ける設備を維持する。その形が当分続く前提で制度を組み直そうとしている、と読めます(導管と託送の解説章)。
③ だとすると、業界はこう動く
第一に、料金改定の実務が変わります。エスカレーションの算入も、変分改定の対象費用の追加も、突き詰めれば「何を原価に入れられるか」の話です。水道料・占用料のようにこれまで自助努力で吸収するしかなかった費目が制度の側で拾われるなら、拾ってもらうための根拠資料を持っている会社と持っていない会社で差が出ます。標準処理期間が2月に縮んでも、申請書類をそろえるのに半年かかっていれば、短縮の効果は打ち消される(料金と市場の解説章)。
第二に、供給計画の位置づけが変わります。期間が3年から5年になり、様式に合成メタン・バイオガス・水素の需給見通しと、大型需要家数・スマートメーター取付数が加わる。提出物の様式変更に見えて、実質は「5年先の脱炭素燃料の量を自社で書けるか」を問う設計です。書けない会社は、まずその事実のほうを知ることになります(メタネーションの解説章)。
第三に、協創という語の実装です。言葉としては抽象的ですが、資料が示している中身は手触りがあります。「現場ファースト運動」などの場を活用して大手事業者のDX活用事例を中小規模のガス事業者へ横展開すること、スマート保安の導入・普及にあわせて人材獲得や規制・制度の在り方を検討すること。自社単独では解けない課題を、業界共通の場に持ち出せるかどうかが問われます(保安体制の解説章)。
留保を置きます。今回示されたのは案であって、確定した制度ではありません。省令改正・通達の見直しは2026年度中を目途とされており、具体的な算定方法や運用は今後の作業に委ねられています。エスカレーションが算入されることと、その結果として託送料金がいくらになるかは、まったく別の話です。
④ 経営として、何を問われるのか
「効率」は、社内で最も通りやすい理屈でした。人を減らす、工程を減らす、原価を下げる。説明の型が決まっていて、決裁の相手も納得の仕方を知っている。
制度の側が「持続性」と「協創」を並べたということは、その二語でも計画が書けるようになる、ということでもあります。ただし効率と違って、この二つには測り方が用意されていません。何をもって持続していると言うのか、どこからを協創と呼ぶのか。指標を決めないまま名前だけ置けば、そこは「なんとなく良さそうな取り組み」の置き場になります。
来年度の計画に「持続性」と書くとき、その横に数字を一つ置けるでしょうか。
まとめ(3行)
- 2026年8月10日、資源エネルギー庁がガス事業環境整備ワーキンググループ第12回に「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)」を提示。2027年3月までに行うこととされていた検証にあたる
- 成果として新規参入者の販売量シェア約19%、経過措置料金の残置は資料記載の「2026年10月時点」で12社中3社などを挙げる一方、方向性としては「市場競争や効率性の追求が中心の視点に加えて」事業の持続性の確保と関係者による協創を掲げた
- 具体策には託送料金原価への物価・雇用者所得の変動見込みの算入、変分改定の対象費用追加と標準処理期間の4月→2月への短縮、供給計画の3年→5年化などが並ぶ。実施は2026年度中を目途で、算定方法や運用は今後の作業に委ねられている