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読み解き 他社事例 2026年8月27日(木) 6:00

脱炭素は、4番目に置かれた

東邦ガスと春日井市の包括連携協定。並ぶ5項目の順番が示すもの

約6分 ガスみらい通信 編集

自治体との連携協定は、締結の一行だけならどれも同じに見えます。ただ、協定に並んだ項目の順番は、そのとき何を前面に出したかの記録でもあります。同じ会社が3年前に結んだ協定と並べると、置かれた位置が動いていました。

① いま、何が起きているのか

2026年8月19日、東邦ガス株式会社と東邦ガスネットワーク株式会社が、愛知県春日井市と包括連携協定を締結しました。締結式は春日井市役所で行われています。

協定で連携するとされた事項は、次の5つです。

  1. 地域振興に関すること
  2. 安全・安心なまちづくりに関すること
  3. こどもの健全育成に関すること
  4. カーボンニュートラル社会の実現に関すること
  5. その他、本協定の目的を達成するために必要な取組に関すること

目的として書かれているのは「地域課題の解決」と「持続可能で豊かな社会の実現」です。個別の事業内容や実施時期は、リリースには記載がありません。

出典:東邦ガス「春日井市との包括連携に関する協定の締結について」(2026年8月19日)

相手方の規模も置いておきます。春日井市の人口は305,003人、世帯数は143,729世帯(令和8年1月1日現在・住民基本台帳及び外国人登録)。

出典:春日井市「人口」

そしてもう一件。同じ東邦ガスが2023年3月17日に安城市と結んだ協定は、名称からして違います。「カーボンニュートラル推進等に関する包括連携協定」。連携分野は7つで、その先頭は「脱炭素社会の実現に関すること」、2番目が「エネルギーの地産地消をはじめ最適利用に関すること」でした。

出典:安城市「東邦ガス株式会社とのカーボンニュートラル推進等に関する包括連携協定」

② なぜ、これが重要なのか

2件を並べると、脱炭素の置かれた位置が違います。

2023年の安城市では、脱炭素が協定の名前になっていました。項目の先頭にも来ている。対して2026年の春日井市では、協定名は素の「包括連携協定」で、カーボンニュートラルは5項目の4番目です。先に来るのは、地域振興、安全・安心なまちづくり、こどもの健全育成。

これを「脱炭素が後退した」と読むのは行き過ぎです。項目としては残っていますし、協定の書き方は相手方の自治体の政策体系にも左右されます。安城市の協定名は、市側の文脈を反映したものかもしれない。2件の比較から会社の方針転換を導くことはできません。

それでも、順番そのものは事実として残ります。自治体との接点で語られる言葉が、脱炭素という単独テーマから、地域課題の束のなかの一項目へ移っている。少なくともこの2件では、そう並んでいます。

ガス事業者にとって自治体は、複数の顔を持つ相手です。道路の管理者であり、大口の需要家であり、災害時の対応先であり、そして住民という顧客の集合体でもある。ビジネスモデルの解説章に整理したとおり、この事業は地域に固定された設備の上に成り立っています。自治体との協定は、その固定された足元をどう使うかの表明でもあります。

③ だとすると、業界はこう動く

第一に、当事者に導管会社が入っていることです。東邦ガスネットワークは、大手3社で2022年4月に行われた導管部門の法的分離によって分かれた導管会社です(ガス事業法の解説章)。小売と導管が並んで自治体と協定を結ぶ形は、地域で果たす役割が二つあることを示しています。道路の下の設備、災害時の供給、日々の保安は導管側の領分です(導管と託送の解説章保安体制の解説章)。

ただし、両社の役割分担が協定のどこにどう書かれているかは、リリースからはわかりません。導管会社は制度上、特定の小売事業者を利するような扱いをしない中立性が求められる立場でもあります。連名で地域と向き合いつつ、業務では線を引く。その運用の細部は、公表資料の外にあります。

第二に、項目の中身がガスの販売ではないことです。地域振興、安全・安心、こどもの健全育成。いずれも、ガスを何㎥売るかとは直接つながりません。人口30万人・14万世帯の都市の生活基盤に、事業者として接点を置く。量で需要が伸びる前提が失われた時代に、地域との関係をどこで保つかという話に見えます(需要構造の解説章)。

第三に、脱炭素が「特別なテーマ」ではなくなりつつあることです。項目に残っている以上、扱わないという話ではない。ただ、看板を掲げて別枠で進めるものから、地域の課題一覧に並ぶ一項目へと位置が動く。自治体の側から見れば、脱炭素はもともと総合計画のなかの一分野です(カーボンニュートラル概論)。事業者の言葉づかいが、自治体の枠組みのほうに寄っていく、という見方もできます。

留保を置きます。ここで比べたのは協定2件、しかも一方は3年前のものです。協定文書の様式は自治体ごとに違い、項目の順番に意味を読み込みすぎるのは危うい。今回わかったのは「この2件ではこう並んでいた」という事実であって、業界全体の傾向ではありません。

④ 経営として、何を問われるのか

協定は、締結式の写真までが一区切りに見えます。実際にはそこからで、今回のリリースにも個別の事業内容は書かれていません。中身は、これから決まる部分が大きいはずです。

厄介なのは、5項目のうち社内に担当が定まっているものと、そうでないものが混ざる点でしょう。カーボンニュートラルには脱炭素の部署があり、安全・安心には保安の部署がある。では、こどもの健全育成や地域振興は誰の仕事になるのか。広報か、営業か、地域の事業所か。どこの仕事にも見えるものは、どこの仕事でもなくなりやすい。

協定書に並んだ5項目のうち、来年度の予算と担当者の名前がついているのは、何項目でしょうか。

まとめ(3行)

  • 東邦ガスと東邦ガスネットワークが2026年8月19日、春日井市と包括連携協定を締結。連携事項は地域振興・安全安心・こどもの健全育成・カーボンニュートラル・その他の5項目
  • 同社が2023年3月に安城市と結んだ協定は名称が「カーボンニュートラル推進等に関する包括連携協定」で、脱炭素が項目の先頭だった。今回は4番目に置かれている
  • 2件の比較から方針を断じることはできないが、自治体との接点で脱炭素が単独の看板から地域課題の一項目へ移る並びになっている点は、事実として残る
体系で理解する ─ 業界のしくみ
CH14 この記事の背景は、解説シリーズ第14章で体系的に学べます。 第14章 都市ガス150年史 歴史シリーズ|約6分 この章を読む →