合成メタンもバイオガスも、天然ガスより高い。高いまま量を増やすには、高い分を誰かが払う理由がいります。その理由を書類の形にする作業に、期限のついた日程が入りました。
① いま、何が起きているのか
2026年8月27日、BIPROGYが、経済産業省資源エネルギー庁から「令和8年度環境価値認証制度等整備事業(合成メタン・バイオガスの環境価値認証・移転制度構築検討に向けた実証事業)」を受託したと発表しました。実証期間は2026年8月から2027年3月まで。目的は、合成メタンやバイオガスが持つ環境価値を認証し、証書として取引できる「クリーン燃料証書制度」の構築に向けて、制度の運用方法や実現可能性を検証することです。
実証で通してみるのは、認証・発行・移転・償却という一連のプロセスです。あわせて、海外制度の調査を踏まえた提言をまとめるとされています。
出典:BIPROGY「合成メタン・バイオガスの環境価値を認証・移転する『クリーン燃料証書制度』の構築に向けた実証事業を受託」(2026年8月27日)
同じ発表は、前提となる数字も置いています。産業分野および家庭・業務分野のエネルギー消費の約6割を「熱の消費」が占めていること。都市ガス事業者は、エネルギー供給構造高度化法を受けて、2030年度にガス小売供給量の1%相当の合成メタンまたはバイオガスを都市ガス導管に注入することを目標としていること。いずれも、既存の都市ガス導管や燃焼設備をそのまま活用できる燃料だという位置づけです。
なお、クリーン燃料証書の対象は、この二つだけではありません。資源エネルギー庁の資料では、e-ガソリン、SAF(持続可能な航空燃料)、HVO(水素化植物油)、そして合成メタン・バイオガスが、環境価値を分離できる燃料として並び、2026年度に制度の具体化・詳細設計を進めるとされています。実証はSAFが先行しており、他の燃料種は少量サンプルでの実証を計画する段階です。今回の受託事業は、その並走する検討の一本にあたります。
出典:資源エネルギー庁 資源・燃料部 燃料供給基盤整備課「クリーン燃料証書の検討状況及び今後の方向性について」(2026年4月17日・資料7)
② なぜ、これが重要なのか
事業名に「認証」と「移転」が並んでいることに、この制度の性格が出ています。
認証だけなら、この合成メタンはこういう作られ方をしました、という証明書で終わります。移転が加わると、意味が変わる。移せるということは、燃料そのものと環境価値を切り離して動かせるということだからです。導管を流れてきた分子を燃やした人と、その脱炭素の効果を自分の実績として数える人が、別々でよくなります(この分離が何を意味するかはメタネーションの解説にも整理しています)。
そして、実証が通してみる工程の最後に「償却」が置かれていることに、目を留めておきたいところです。償却とは、使った証書を消して二度使えなくする手続きのことです。認証・発行・移転までなら、環境価値を作って配る仕組みで済みます。償却まで含めて設計するというのは、「同じ削減量が二度数えられていないか」を制度の内側で担保しにいく、ということです。分離できる仕組みは、必ずこの問いとセットになります。
合成メタンの経済性は、たいてい製造コストの話として語られます。水素をいくらで作れるか、CO2をいくらで集められるか。ただ、事業として立つかどうかを決める変数はもう一つあって、それが「環境価値がいくらで売れるか」です。コストを下げる話と、価値に値段をつける話は別で、後者の器がないと、製造コストがどれだけ下がっても売り先が痩せたままになります。今回の実証は、その器の設計図を引く作業にあたります。
③ だとすると、業界はこう動く
三つ、動きそうな場所があります。
一つめは、商品の作り方です。 いまガス小売が脱炭素メニューを出そうとすると、どうしても実物の混入率の話になります。証書が分離できるなら、供給する分子はそのままに、証書を付けた契約を作れる。混入率という物理の制約から、商品設計が半分だけ自由になります。裏を返せば、「うちのガスは何%グリーンです」という説明の意味が変わるということでもあり、顧客に対して何を約束しているのかを、これまでより丁寧に書き分ける必要が出てきます。
二つめは、他制度との接続です。 証書の値段は、それが「どこで通用するか」でほぼ決まります。GX-ETSの排出量算定、企業の温室効果ガス報告、国際的な開示の枠組み。どれと接続でき、どれと接続できないかで、買い手の数が変わるからです。実証に海外制度の調査が含まれているのも、国境をまたいで通用するかどうかが、この種の証書の価値を左右するためでしょう(制度側の全体像はGXとカーボンプライシングの解説へ)。
三つめは、バイオガスが同じ枠に入っていることの意味です。 2030年度の1%目標は、合成メタン「または」バイオガスで達成すればよい建て付けになっています。二つは制度上は交換可能な選択肢で、しかし作り方も原料も違う。証書をこの1%目標の達成手段として使えるかどうかは、資料7の時点ではなお検討を継続するとされていますが、仮に認められ、証書という共通のものさしができれば、どちらで1%を埋めるのが安いかという比較が、これまでより直接的にできるようになります。その比較の結果は、原料調達の競争にも跳ね返るはずです。
④ 経営として、何を問われるのか
証書が分離できる世界では、事業者は二つの立場を同時には取れません。作った環境価値を売って収益にするのか、自社と自社グループの排出削減に充てるのか。償却まで含む制度になるのなら、同じ1単位は、二度は使えないからです。
そして、この問いに答える前に、もっと手前の作業があります。実証は2027年3月まで続き、証書の単位も、対象になる製造経路も、報告の様式も、これから詰まっていきます。決まってから対応するものと、決まる前に意見を出せるものが混ざっている時期です。自社の設備や調達計画のどこが、どの論点に当たるのか。それを社内で洗い出せているかどうかが、来年度に効いてきます。
まとめ(3行)
- 資源エネルギー庁の委託で、合成メタン・バイオガスの環境価値を認証・移転する「クリーン燃料証書制度」の実証事業が2026年8月から2027年3月まで走る
- 検証するのは認証・発行・移転・償却の一連のプロセス。「移転」できることが商品設計を変え、「償却」まで設計することが二重計上への答えになる
- 証書は他制度とどこまで接続できるかで値段が決まる。高度化法の1%目標の達成手段として使えるかは検討中で、そこが決まれば調達の比較の仕方も変わる