メタネーションと聞いて思い浮かぶのは、たいてい国内のどこかにある実証設備です。ところが、商用の規模で日程まで入っている案件を開くと、場所はネブラスカ州でした。
① いま、何が起きているのか
2026年8月28日、東邦ガスが、同社と大阪ガス・伊藤忠商事の3社が参画する米国ネブラスカ州ノーフォークのe-メタン製造事業「Live Oakプロジェクト」について、基本設計(FEED)を開始したと公表しました。
リリースに書かれている数字を並べます。
- 製造容量:年間約7.5万トン
- 水電解装置:250MW級
- CO₂の調達源:バイオエタノール工場から回収されるバイオマス由来のCO₂
- 日程:2027年度内のFEED完了およびEPCの開始、2030年度中の商業運転開始
- 日本への供給:米国の天然ガスおよびLNGの既存インフラを利用
事業の持ち分は、TotalEnergiesが33.35%、Tree Energy Solutions Belgium B.V.(TES)が33.35%、日本の3社が合計で33.3%です。3社それぞれの内訳は、リリースには書かれていません。
出典:東邦ガス「米国ネブラスカ州におけるe-メタン製造事業(Live Oakプロジェクト)の基本設計(FEED)開始について」(2026年8月28日)
この5社体制は、2025年12月2日に共同開発・操業契約(Joint Development and Operating Agreement)を結んだ時点で固まっています。今回はそこから設計の段階へ進んだ、という位置づけです。
② なぜ、これが重要なのか
「なぜ米国なのか」は、実は業界の計画書にそのまま書いてあります。
日本ガス協会が2025年6月3日に公表した「アクションプラン2030」は、e-メタンの項でこう述べています。「水素が安価に入手できる海外において、e-メタンの大規模製造に向けた調査・検討を実施する」。そのうえで「2030年度にe-メタンやバイオガスの1%供給を目指します」と続きます。
出典:日本ガス協会「『ガスビジョン2050』および『アクションプラン2030』の策定について」(2025年6月3日)
つまり、海外製造は今回の3社が独自に選んだ道ではなく、業界計画の側にあらかじめ書かれた前提です。Live Oakは、その前提に日程と数字が入った一件ということになります。
そして今回の案件には、海外を選ぶ理由が3つとも揃っています。水素をつくる電力(再生可能エネルギーの拡大する米国と250MW級の水電解装置)、原料のCO₂(バイオエタノール工場という、バイオマス由来のCO₂が集まる場所)、運ぶ手段(既存の天然ガス・LNGインフラ)。この3点が同じ場所に並ぶ土地を国内に探すのは、簡単ではありません。
なお、1%という目標は比率で置かれており、それが何万トンにあたるかを協会の資料は示していません。年間約7.5万トンという今回の数字を、目標に対する達成率のように読むことはできない点は付記しておきます(メタネーションの解説章)。
③ だとすると、業界はこう動く
第一に、日本勢が座っているのは、作る側というより買う側の席に近いことです。持ち分は3社合計で33.3%、残る66.7%はTotalEnergiesとTESが分け合っています。出資して権益を持ちつつ、生産物を引き取る——この形は、LNGの上流参画と長期契約を組み合わせてきたやり方の延長線上にあります(LNG市場の解説章)。燃料が新しくなっても、調達の作法はいまのところ既存の型を借りている、と読めます。
第二に、分子と環境価値が別々に動くことです。米国の天然ガス・LNGインフラを使うということは、船に載るのは物理的に在来のLNGと区別のつかないメタンだということでもあります。それがe-メタンであることは、書類の側で担保するしかない。先日触れたクリーン燃料証書の実証と、根は同じ問題です(カーボンニュートラル概論)。
第三に、ルールの時計と設備の時計が並走していることです。協会のアクションプランは、国際的なCO₂カウントルールについて、IPCCの「2027〜28年に策定予定のCCUSの排出計上方法に関する規程」、GHGプロトコルの「2027〜28年の大規模改定」を挙げ、そこでe-メタンの位置づけを確保するとしています。一方Live Oakは、2027年度内にFEEDを終えてEPCに入り、2030年度に商業運転という日程です。設計を固めて建設に移る判断と、その燃料をどう計上するかの国際ルールが固まる時期が、ほぼ同じ年に重なっている。
留保を置きます。FEEDは設計であって、建設の確約ではありません。この段階から先に進まない案件も、進んだうえで規模や日程が変わる案件もあります。今回わかったのは「設計に入った」ことであって、2030年度に7.5万トンが日本に届くと決まったわけではない。
④ 経営として、何を問われるのか
それでも、FEEDに入った案件は社内の予定表に日付を書き込みます。2030年度。多くのガス事業者が中期の目標年として掲げている、あの年です。
厄介なのは、届くものの値段が、まだどこにも置かれていないことでしょう。在来のLNGと物理的に区別のつかないメタンが、環境価値の分だけ高い値段で入ってくる。それを誰にいくらで渡すのかは、証書制度の設計とも、顧客の脱炭素目標の締切とも絡みます。調達の話に見えて、値付けと商品設計の話です。
2030年度に届く分の置き場所は、いまの社内の価格表のどこにありますか。
まとめ(3行)
- 東邦ガス・大阪ガス・伊藤忠商事が参画する米国ネブラスカ州のe-メタン事業「Live Oak」が2026年8月28日にFEED開始。年間約7.5万トン、250MW級の水電解装置、CO₂はバイオエタノール工場から回収し、2027年度内のFEED完了・EPC開始、2030年度中の商業運転を目指す
- 海外製造は業界計画の前提そのもので、日本ガス協会のアクションプラン2030は「水素が安価に入手できる海外において」大規模製造を検討すると明記し、2030年度に1%供給を掲げている
- 日本勢の持ち分は3社合計33.3%で、出資して引き取る形はLNG調達の型の延長にある。設計が進む2027〜28年は、CO₂カウントの国際ルールが固まる時期とも重なる