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基礎シリーズ 2/3 第2章

ガスが家に届くまで

LNGサプライチェーンの全体像

読了目安 約6分|更新 2026.07.05

コンロの火の「源流」をたどると、海の向こうのガス田に行き着きます。日本は天然ガスの自給がほとんどできず、ほぼ全量を海外からの輸入に頼っています。この章では、ガスが家庭に届くまでの長い旅——LNGサプライチェーン——を上流から順に追いかけます。

① 上流:ガス田で掘り、マイナス162℃で液体にする

旅の出発点は、豪州・東南アジア・中東・米国などのガス田です。採掘された天然ガスは、そのままでは船で運べません。気体のままでは体積が大きすぎるからです。

そこで、マイナス約162℃まで冷やして液体にします。液化すると体積は約600分の1に。これが LNG(Liquefied Natural Gas=液化天然ガス) です。液化のための巨大プラントを建てるには数千億円規模の投資が必要で、だからこそ上流は「誰が権益を持つか」という資源戦略の主戦場になります。

② 海上輸送:LNG船で数千キロを運ぶ

液化されたLNGは、魔法瓶のような構造の専用タンカー(LNG船)で日本へ運ばれます。球形タンクを並べた独特の船影を、港で見たことがある方もいるでしょう。

このルートが、地政学リスクの通り道でもあります。産ガス国の政情、海峡の安全、世界の需給——「どこから、どのルートで買うか」が安定供給の生命線です(→時事コラムで継続的に扱うテーマです)。

③ 受入基地:再び気体に戻し、「都市ガス」に仕上げる

日本に到着したLNGは、臨海部のLNG受入基地のタンクに貯蔵されます。ここで海水の熱などを使って温め、再び気体に戻します(気化)。

このとき、2つの大事な仕上げをします。

  1. 熱量調整:LPGなどを加えて、規格(13A)どおりの熱量に整える
  2. 付臭:無臭の天然ガスに、漏れに気づくための「におい」を付ける

つまり受入基地は、単なる貯蔵庫ではなく「原料の天然ガスを、製品としての都市ガスに仕上げる工場」です。

④ 導管網:高圧から低圧へ、圧力を落としながら届ける

仕上がった都市ガスは、地下の導管網へ送り出されます。導管は水道やインターネットの回線と同じく、幹線から毛細血管へという構造をしています。

  • 高圧導管:基地から都市圏へ送る大動脈
  • 中圧導管:工場・大口需要家やエリア内の輸送
  • 低圧導管:整圧器(ガバナ)で圧力を落とし、家庭・商店へ

最後にガスメーターを通って、コンロや給湯器に届きます。この導管網の総延長は全国で数十万kmに及ぶとされ、一朝一夕には絶対に真似できない参入障壁であり、同時に維持・更新し続けなければならない資産でもあります。

⑤ 保安:24時間、届け続けるための裏方

サプライチェーンの最後を支えるのが保安です。導管の点検・腐食対策、緊急時の出動、地震時の供給停止判断(ブロックごとに止める仕組み)、マイコンメーターによる自動遮断——。「安全に、止めずに届ける」ための無数の仕組みと人が、このチェーンの裏側に張り付いています。

災害時にガスの復旧が地道な戸別作業になるのは、一軒ずつ安全を確認しながらしか再開できないからです。ここに、この産業の「安全最優先」の思想が表れています。

この章のまとめ

  • 日本の天然ガスはほぼ全量輸入。ガス田→液化(−162℃・体積1/600)→LNG船→受入基地という長い旅
  • 受入基地は「貯蔵庫」ではなく気化・熱量調整・付臭を行う仕上げ工場
  • 導管は高圧→中圧→低圧の階層構造。総延長数十万kmの巨大インフラが参入障壁かつ維持の宿題
  • 全体を支えるのは保安。安全に止めずに届けることが事業の根幹

出典・参考:資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ」(enecho.meti.go.jp)/JOGMEC(jogmec.go.jp)/日本ガス協会(gas.or.jp)。