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読み解き 市況・地政学 2026年7月21日(火) 6:00

産地を特定しない契約が、備えになる

静岡ガスがPETRONASと7年契約。ポートフォリオ契約とDESが示す調達の組み立て方

約6分 ガスみらい通信 編集

調達を多様化する、と聞けば、買う相手や産地を増やす話だと受け取ります。ところが7月13日に公表された契約は、むしろ産地を決めない方向に振れていました。

① いま、何が起きているのか

静岡ガスは2026年7月13日、マレーシアの国営石油・天然ガス会社Petroliam Nasional Berhad(PETRONAS)の子会社であるPETRONAS LNG Ltd.と、LNGの売買契約を締結したと発表しました。締結日は7月9日です。

契約の概要は、公表されている範囲で次のとおりです。

  • 契約内容:供給源を特定しないポートフォリオ契約
  • 契約期間:2032年度〜2038年度(7年間)
  • 契約数量:約84万トン
  • 引渡条件:DES(仕向地到着渡し)=売主が輸送船を手配し、揚地まで輸送する

背景として同社は、1996年に清水エル・エヌ・ジー袖師基地でPETRONASのLNG船を第一船として受け入れて以来、30年にわたり累計200隻以上のマレーシア産LNGの供給を受けてきたと説明しています。そのうえで、中東情勢の緊迫化をはじめとする地政学リスクが深刻化するなかでエネルギー安全保障の重要性が高まっているとし、本契約はPETRONAS LNGのグローバルLNGポートフォリオを活用してLNG調達ソースを多様化し、自社の調達力の強靭化と供給安定性の向上を図るものだ、としています。あわせて、LNG売買にとどまらないカーボンニュートラル分野での将来的な協業の可能性も視野に入れる、と述べています。

なお、価格指標や年ごとの引取量の配分、仕向地に関する条件は公表されていません。7年で約84万トンを単純に均せば年12万トン規模ですが、実際の配分は明らかにされていない点は補っておきます。

出典:静岡ガス「PETRONAS LNGとのLNG売買契約の締結について」(2026年7月13日)

② なぜ、これが重要なのか

この契約でいちばん目を引くのは、数量でも相手先でもなく、「供給源を特定しないポートフォリオ契約」という一行だと思います。

LNGの長期契約というと、かつては「どのプロジェクトの、どの液化設備から出る玉を、何年引き取るか」を決める形が中心でした。産地と設備が特定されているぶん、そこで事故や政変やストライキが起きれば、その分だけ玉が来なくなる。産地を特定するとは、その産地の事情を丸ごと引き受けることでもあります。

ポートフォリオ契約は、そこを売主側に預ける形です。買主は「PETRONASが世界中に持っている玉のどれか」を買う。どこから運ぶかは売主が決める。さらにDES(仕向地到着渡し)では、船の手配まで売主の側にあります。つまりこの契約で静岡ガスが買っているのは、特定の産地のガスというより、期日に日本の受入基地へ届くという状態に近い。

そう捉えると、リリースが地政学リスクとエネルギー安全保障を背景に挙げているのが腑に落ちます。産地の数を増やして分散するのも多様化ですが、産地と航路の当たり外れを自社の帳簿から外に出すのも、もう一つの多様化です。日本のLNG調達が長期契約とスポットをどう組み合わせてきたかはLNG市場の解説章で、供給途絶にどう備えるかという論点はエネルギー安全保障の解説章で整理した通りですが、その両方に効く選択だと言えます。

③ だとすると、業界はこう動く

第一に、自前の船腹や産地権益がなくても、調達戦略を持てるという道筋が見えやすくなります。DESであれば、輸送手段の確保という重い部分を抱えずに、長期の供給枠を押さえられる。大手以外の地域ガス事業者にとって、調達の話は「大手から買う」以外の選択肢が現実に取りうるものになってきた、ということです。もっとも、輸送を委ねるとは輸送のコストと判断を売主に委ねることでもあり、運賃や航路が荒れた局面で誰がその負担を負うのかは契約条件次第です。ここは公表されていません。

第二に、産地が特定されないことは、環境価値の説明とは緊張関係に立ちます。カーボンフットプリントや低炭素認証の議論は、どこの、どの設備から出たガスかを辿れることを前提に組み立てられています。ポートフォリオ契約は供給安定性の面では強い一方、その追跡可能性とはそのままでは噛み合わない。リリースがカーボンニュートラル分野での将来的な協業に触れているのは、この論点が意識されているからだと読むこともできます(ただしリリースは協業の中身に踏み込んでいません)。

第三に、2032年度開始という時間軸です。いま結んで、玉が動き出すのは6年後。2038年度まで続きます。足元の価格が高いから買う、という話ではありません。2030年代後半に自社の販売量がどれくらいあり、そのうち何割を長期契約で押さえておくべきか——人口減と脱炭素で需要の絵が描きにくい時期に、その見通しを立てて枠をコミットしたということです。長期契約は安定を買う手段であると同時に、需要が読み違いだったときには重荷にもなる。この二面性は、契約の期間が長いほど大きくなります。

④ 経営として、何を問われるのか

自社の調達ポートフォリオを一枚の紙に書き出したとき、2030年代の欄はどれくらい埋まっているでしょうか。

長期契約は、更新の時期が来てから考えるものではなくなりつつあります。今回のように6年先から始まる契約が結ばれているということは、2030年代の玉をめぐる交渉は、すでに始まっているということです。空欄のまま時間が過ぎれば、選べる相手も条件も減っていく。埋め方の巧拙より前に、いつ埋めにいくかが問われています。

まとめ(3行)

  • 静岡ガスが2026年7月9日、PETRONAS LNGとLNG売買契約を締結(7月13日公表)。2032年度〜2038年度の7年間、約84万トン、供給源を特定しないポートフォリオ契約でDES(売主が輸送船を手配)
  • 同社は中東情勢の緊迫化など地政学リスクを背景に挙げ、調達ソースの多様化と供給安定性の向上を目的とする。産地を増やす多様化ではなく、産地と輸送の不確実性を売主側に預ける形の多様化
  • 一方で産地が特定されない構造は、環境価値の追跡可能性とは緊張関係に立つ。開始は6年先で、2030年代の需要見通しを今立てて枠を押さえる判断でもある。価格指標や仕向地条件は非公表
体系で理解する ─ 業界のしくみ
CH2 この記事の背景は、解説シリーズ第2章で体系的に学べます。 第2章 ガスが家に届くまで 基礎シリーズ|約6分 この章を読む →