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読み解き 制度・再編 2026年7月29日(水) 6:00

8社が揃ってズレたなら、前提のほうだ

託送料金の期中調整に金額がついた。意見募集は8月17日まで受付中

約6分 ガスみらい通信 編集

2週間前にこの欄で扱ったのは、託送料金に物価上昇を期の途中で反映する仕組みが入る、という制度の話でした。その仕組みに、今回は金額がつきました。そして意見を出せる窓が、いま開いています。

① いま、何が起きているのか

2026年7月10日、一般送配電事業者8社が「託送供給等に係る収入の見通し」の変更承認を申請しました。8社は、北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド、関西電力送配電、四国電力送配電、九州電力送配電、沖縄電力。この一覧に、北陸電力送配電と中国電力ネットワークの名前はありません。

送配電網協議会が理由として挙げているのは一つ、「昨今の物価や労務費、金利の上昇」です。対象は第一規制期間(2023〜2027年度)。5年分をまとめて決めた収入の枠を、期間が終わる前に見直す——前号で「2026年度から入る」と書いた期中調整が、実際の申請として動き出した形です。

出典:送配電網協議会「一般送配電事業者による『託送供給等に係る収入の見通し』の変更承認申請について」(2026年7月10日)

規模感を1社で見ます。中部電力パワーグリッドの発表によれば、現在承認を受けている5か年の総額3兆1,605億円を、3兆2,979億円へ。差し引き1,374億円の増額です。適用期間は2026年11月から2028年3月で、この期間における増加影響は年平均970億円としています。同社は理由を、物価や労務費、金利などが急速に上昇し、送配電設備の建設や保守などにかかる事業運営コストが当初の想定よりも大幅に増加したため、と説明しています。

出典:中部電力パワーグリッド「『託送供給等に係る収入の見通し』の変更(期中調整)承認申請について」(2026年7月10日)

そして、この申請は審査の途中にあります。資源エネルギー庁は電気事業法第17条の2第4項に基づき、8社の申請について「国民の声」を募集中で、受付締切は2026年8月17日23時59分(案件番号620226019)。承認されるかどうか、どの水準で認められるかは、これからの手続きに委ねられています。

出典:e-Govパブリック・コメント「一般送配電事業者8社の託送供給等に係る収入の見通しの変更承認申請に係る『国民の声』の募集について」

② なぜ、これが重要なのか

制度が用意された段階では、期中調整は「使えるようになった選択肢」でした。使うかどうかは各社の判断であり、採算の悪化がどの程度なのかも、外からは推し量るしかなかった。

そこに8社という数字が出ました。ここが今回のいちばんの情報だと思います。一社の見積もりが甘かったのなら、手を挙げるのは一社です。ほぼ揃って申請が出たということは、外れたのは個々の計画ではなく、期間全体に共通して置かれた前提——2023年度時点の物価と金利——のほうだったことになります。送配電網協議会は現状を「自助努力のみで吸収することが困難な状況」と表現しています。

金額もそれを裏づけます。中部電力パワーグリッド1社で5か年総額の約4.3%にあたる1,374億円。適用期間の年平均970億円という数字は、この修正が一度きりの帳尻合わせではなく、残る期間ずっと効き続ける水準であることを示しています。

つまりこれは、事業者が制度に救済を求めた話というより、規制の側が引いた線が現実に追いつかなくなったことの記録です。

③ だとすると、業界はこう動く

第一に、「料金は据え置き」が中立な選択ではなくなります。物価も金利も動いているとき、料金の枠だけを動かさずにおくことは、実質的には投資余力を削る判断になります。据え置きは現状維持ではなく、片側だけを固定した変更である。維持更新の必要量が減らないのなら、削られた分はどこかに現れます——更新の先送りとして、あるいは将来のより大きな改定として。

第二に、説明すべき中身が変わります。期中調整は、事業者の採算のためだけにある仕組みではありません。設備を保ち続けるための原資を確保する仕組みです。ところが利用者から見えるのは請求額のほうだけ。「なぜ今、値上げの話になるのか」という問いに、物価指数と金利という抽象的な要因を、目に見える工事や取り替えの絵に結び直して語れるかどうかが問われます。1,374億円という数字が何メートルの管や何基の設備にあたるのかを語れる事業者と、そうでない事業者では、同じ改定でも受け取られ方が変わります。

第三に、ガスの側は需要の重力がもう一段強い。電力の送配電では、たとえば中部電力パワーグリッドが7月22日に認可された約款変更で、データセンターなどの契約電力の大きな申込みが増えるなか、非効率な設備形成を抑えるための要件(工事費負担金の入金期限や、用地の権原を示す書類の提出期限)を設けています(出典)。申込みが増えすぎる側の悩みも同時に抱えているわけです。一方でガスの導管は、需要構造の章で見たとおり、人口減少や設備の電化によって利用者が減る方向の圧力を受けています。コストが上がり、分母が減る。同じ「前提がズレる」現象でも、ガス側では逃げ場が狭い(仕組みの基礎は導管ネットワークと託送の章)。

一点、留保を置きます。今回の申請は電力の一般送配電事業のものであり、レベニューキャップも電力送配電の制度です。ガスの導管事業に同じ枠組み・同じ手続きがそのまま当てはまるわけではなく、事業者の規模も需要の構造も違う。ここで言えるのは制度の移植可能性ではなく、長期で固定した料金の枠はインフレ局面で必ず前提の見直しを迫られる、という共通の力学のほうです。

④ 経営として、何を問われるのか

いま社内で回っている設備投資計画は、いつの単価で引かれたものでしょうか。

計画の年度なら、誰でも即答できます。答えにくいのは、その計画の中にある「1メートルあたりいくら」「調達金利は何%」という前提が、最後にいつ更新されたかのほうです。物価と金利が動いた数年を挟んでもなお前提だけが古い計画は、数字の上ではむしろ健全に見えます。ズレが表に出るのは、たいてい着工したあとです。

8社は、その答え合わせを制度の側から迫られました。同じ問いを、自社の計画表に対して先に投げておけるか。窓が開いている8月17日までは、外から意見を出す側に回ることもできます。

まとめ(3行)

  • 一般送配電事業者8社が2026年7月10日、第一規制期間(2023〜2027年度)の途中で「託送供給等に係る収入の見通し」の変更を申請。理由は物価・労務費・金利の上昇。審査中で、意見募集の締切は2026年8月17日
  • 中部電力パワーグリッド1社で5か年総額3兆1,605億円→3兆2,979億円(+1,374億円、約4.3%)。適用期間2026年11月〜2028年3月の増加影響は年平均970億円。8社に揃ったなら、ズレたのは個々の計画でなく共通の前提のほう
  • 据え置きは中立な選択ではない。コスト上昇と需要減が同時に効くガスの導管では、同じ論点がより逃げ場の狭い形で現れる
体系で理解する ─ 業界のしくみ
CH6 この記事の背景は、解説シリーズ第6章で体系的に学べます。 第6章 料金と自由化のしくみ 基礎シリーズ|約6分 この章を読む →