トップ読み解き / 特集
読み解き 特集 2026年8月15日(土) 6:00

従業員16名の会社も、同じ義務を負う

189の一般ガス導管事業者。規模の差が、再編と協創のどちらを呼ぶのか

約11分 ガスみらい通信 編集

国内でガスを配る導管の会社は、189ある。需要家5,026件・従業員16名の会社もあれば、24万件・452名の会社もある。この二つは、同じガス事業法の下で、同じ種類の保安義務を負っている。

制度はこれまで、この差を競争で扱ってきた。効率的な事業者が生き、そうでない事業者が退く。8月10日に国が出したガスシステム改革の検証案は、その総括のなかで別の言葉を使っています。この特集は、その言い換えが何を意味するのかを掘ります。

背景 — なぜ今、これを掘るのか

まず、この業界の形を数字で置いておきます。

一般ガス導管事業者は189事業者、ガスメーターの取付個数は3,214万個。導管の総延長は2024年3月末に27万kmへ達し、その約86%が低圧、約13%が中圧、約1%が高圧です。ただし供給が可能な区域は国土の約6%にとどまり、総世帯数および総事業所数に占める都市ガスが供給されている住戸等の割合は約48%。導管網は、人口密度や産業集積度が高い都市部を中心に整備されています。

出典:資源エネルギー庁「ガスシステムを取り巻く現状」(第1回 ガス事業環境整備ワーキンググループ・2025年8月27日・資料5)

競争のほうは、進みました。ガス小売事業の事業者数は2017年4月の236件から2025年4月には283件へ増え、家庭用の販売量に占める新規小売事業者の割合は2025年4月時点で全国16.4%(いずれも前掲・2025年8月27日の資料)。新規参入者の販売量が全体に占める割合は約19%まで上昇し、経過措置料金規制も、2017年4月の全面自由化時に指定された12社のうち、2026年10月時点で残っているのは3社です。

出典:資源エネルギー庁「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)の概要」(第12回 ガス事業環境整備ワーキンググループ・2026年8月10日・資料4-1)

数字だけを見れば、改革は狙ったところに着いています。ところが同じ検証案は、評価の章でこう書いている。ガス事業者は大手事業者や地方事業者、新規参入事業者と多様な事業者が存在しており、経済社会情勢の変化による新たな課題に対して、個々の事業者だけでは対応が困難になってきているものについては、様々な関係者が連携して対応することがより求められる面も想定される、と。

競争を進めた制度の総括に、連携という語が入っている。ここに段差があります。以下、三つの論点で掘ります。

論点① 同じ義務が、桁の違う体力に載っている

国の資料には、地域に密着したガス事業者の取組事例として、規模のわかる会社がいくつか並んでいます。需要家数と従業員数はいずれも2025年3月末時点です。

  • 島田ガス(静岡県島田市):需要家5,026件/従業員16名
  • 唐津ガス(佐賀県唐津市):需要家9,121件/従業員29名
  • 九州ガス(長崎県諫早市):需要家44,311件/従業員113名
  • 日本ガス(鹿児島県鹿児島市):需要家152,102件/従業員198名
  • サーラエナジー(愛知県豊橋市):需要家242,640件/従業員452名

出典:前掲・資源エネルギー庁「ガスシステムを取り巻く現状」(日本ガス協会説明資料からの抜粋・加工として掲載)

これは規模の順位表ではなく、取組を紹介するために選ばれた5社です。それでも、「都市ガス事業者」という一語がどれだけの幅を指しているかは、これで足ります。最小と最大で需要家数は48倍、従業員数は28倍。同じ業界団体に属し、同じ法律の条文を読んでいる。

問題は、義務の側が件数に比例しないことです。緊急時の出動体制は、需要家が5,000件でも24万件でも夜中に人がいなければ成立しない。災害時連携計画の作成は2022年から一般ガス導管事業者に義務化されていて、これも件数割りではありません。ガス安全高度化計画2030に基づく非耐震管対策は全国で進み、2025年3月末時点の耐震化率は93.1%に達していますが、その投資は自社の導管の長さで決まる。

つまり保安のコストには、需要家数で割ると小さい事業者ほど重くなる性質の部分がある。スマート保安やスマートメーターは、まさにその重さを人手から機械へ移す手段です。ただし検証案がスマートメーターシステムについて書いている普及の実態は、大手事業者を中心として導入を推進、というもの。スマート保安のほうは、省人化・省力化の取組の全国展開が必要だという課題の側に置かれています。省人化の道具は、いちばん人が足りないところに先に届くとは限らない。保安体制の解説章で見た「誰が何を負うか」の分担は法律で決まっていますが、それを果たす体力までは決まっていません。

そして、この差には時間の圧力がかかります。検証案は、人口減少の進展が見込まれるなかでガス事業の担い手確保の課題がより顕在化している、と書き、事業環境の変化としても、地方における担い手不足を踏まえた社会基盤の維持を挙げています。担い手の確保は、体力の差がそのまま効いてくる論点です。

論点② 再編は、大手が吸うだけの形をしていない

「規模の差」と言うと、答えは統合、それも大手による吸収に見えます。実際に国の資料に載っている事例は、そればかりではありません。

九州ガスは2014年にホールディングスを設立し、都市ガス事業とLPガス事業を統合しました。主要事業をエネルギー・建設・不動産の三つに位置づけ、地域で事業を行うそれらの業種の企業を積極的にM&Aすることを通じて、経済を地域の中で回していくことを目指す、と整理されています。資料の図には、その狙いがはっきり書かれている。地域事業が事業承継等で地域外に漏れ出ることを食い止める、と。

サーラエナジーも、都市ガス事業とLPガス事業を統合・再編して新たに設立された会社です。エネルギー事業再編の目的として、単体エネルギー事業の観点を超えて豊橋・浜松地域の社会・経済・生活に関わりを持って事業を営む、という説明が置かれています。

方向が違うのがわかります。全国の同業者が縦に積み上がって大きくなるのではなく、一つの地域のなかで業種をまたいで束ねている。エネルギーの隣にあるのは、別の県のガス会社ではなく、同じ市の建設会社や不動産会社です。

背景には、隣接業界の縮小があります。国の資料に引かれた全国LPガス協会の調査によれば、LPガス事業者数は2007年の24,622事業者から2016年の19,514事業者へ、10年間で2割強減っています。同じ資料は、地方都市では人口減に加えて後継者不足等の問題からLPガス事業者の廃業が続いているが、地元の都市ガス事業者がその事業を継承し、都市ガスとLPガス一体となった経営を進める事例が増えてきている、と書いています。統合の意義として挙げられているのは、共通業務・要員統合による効率化と、顧客サービスの充実化でした。

なお、この数字は2016年までのもので、資料自体も2021年1月の研究会に出されたものです。足元の事業者数の水準を示すものとしては使えません。ここで読めるのは、都市ガス事業者が引き受けている再編の一部が、同業の合併ではなく隣接事業の受け皿として起きてきた、という構図のほうです。

要員を統合するというのは、論点①の裏返しでもあります。夜中に人がいなければ成立しない体制を、都市ガスとLPガスで別々に持つのをやめる。規模を大きくしたのではなく、同じ体力で守る範囲を広げている。業界再編の解説章が扱う統合の型のうち、地方でいま動いているのはこちらの形です。

論点③ 制度が出した答えは、統合ではなかった

では、国は規模の差にどう応じたのか。検証案が並べた対応方針を見ると、統合を促す仕掛けは入っていません。

事業基盤の維持・整備としては、供給計画を通じたスマートメーターの状況把握と普及促進、「現場ファースト運動」などの場を活用して業界内で大手事業者のDX活用事例を中小規模のガス事業者に横展開すること、スマート保安の導入・普及にあわせた人材獲得や規制・制度の在り方の検討。料金制度としては、託送料金の原価への消費者物価および雇用者所得等の変動見込み(エスカレーション)の算入、変分改定の対象費用への水道料・占用料の追加、一般ガス導管事業者の事業報酬率の算定方法の見直し、変分改定に係る標準処理期間の4か月から2か月への短縮。制度的な対応としては、供給計画・製造計画の期間を原則3年間から一律5年間へ延長すること。これらの省令改正・通達の見直しは、2026年度中を目途に実施するとされています。

出典:前掲・資源エネルギー庁「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)の概要」

並べ直すと、性格がはっきりします。事例の横展開は、大手が持っているノウハウを、資本関係を作らずに移す手段です。エスカレーションの算入と事業報酬率の見直しは、託送料金の解説章で扱った原価の作り方を、物価が上がる局面でも投資が回るように調整するものです。計画期間の5年化は、見通しを立てる単位を長くする。

どれも、事業者の数を減らす方向には効かない。効くのは、いまの数のまま続けられるかどうかのほうです。検証案が方向性として掲げたのも、市場競争や効率性追求中心の視点のみならず、事業者の持続性の確保と関係者による協創の実現といった視点も踏まえて対応する、という書き方でした。

統合ではなく協創。この選択は、規模の差を解消しないことを前提に置いています。189という数を減らさずに、189のまま持たせる。制度としては、そちらのほうが難しい設計です。

反対から見ると

ここまでの筋には、いくつか留保が要ります。

第一に、小さいことは弱点とは限りません。島田ガスは2020年7月、島田市とSDGsを先導し持続可能なまちづくりを推進する電力供給等業務に関する協定を締結し、家庭用太陽光の卒FIT電力を地域通貨で買い取るアグリゲーションに取り組んでいます。従業員16名の会社が自治体と協定を結ぶ速さは、大きな組織が同じことをする速さとは違う。国の資料がこれらを「地域に密着したガス事業者の取組事例」として並べたのは、規模の小ささを課題として示すためではありませんでした。

第二に、協創は責任の所在を曖昧にしうる。保安の責任は、2017年の事業類型見直しに合わせて、消費機器調査と危険発生防止周知はガス小売事業者、緊急時の対応とガス工作物の漏えい検査はガス導管事業者、と事業者ごとに法定されています。連携して対応する範囲が広がるほど、この線引きとの関係を都度確かめる必要が出てきます。連携は義務の共有ではありません。

第三に、協調と競争制限は隣り合っています。同じ検証案は、需要家利益の保護に資する適正な取引環境の確保として、電力・ガス取引監視等委員会による市場監視や、卸取引・LNG基地の第三者利用に関するモニタリングの継続を挙げている。協創を進める方針と、競争を監視する方針が、一つの文書のなかに並んでいる。この二つは自動的には両立しません。

第四に、統合が正解と決まっているわけでもない。供給が可能な区域は国土の約6%で、導管網は都市部を中心に整備されています。会社を一つにしても、離れた区域の導管がそれで一本につながるわけではない。統合の効果が出やすいのは間接部門と要員の運用のほうで、設備の側にどこまで及ぶかは区域の地理に左右されます。

経営への問い

自社の保安体制のうち、需要家数が半分になっても減らせない部分はどれだけあるか。その部分を、何年かけて、誰と分けるのか。

問いをこの形にするのは、規模の議論が「大きくなるか小さいままか」という二択に見えやすいからです。実際に選ぶのは、そこではない。減らせない固定的な体力を、自社だけで抱えるのか、隣の業種と抱えるのか、同業と抱えるのか、機械に置き換えるのか。制度はこの夏、四つ目と三つ目を後押しする道具を並べました。一つ目を選び続けるなら、その原資をどこから出すかは自分で答えることになります。

まとめ

  • 一般ガス導管事業者は189。需要家5,026件・従業員16名の会社と、242,640件・452名の会社が、同じ法律の下で同じ種類の保安義務を負っている(2025年3月末時点の事例)
  • 地方で起きている再編は同業の合併だけでなく、LPガスや建設・不動産を地域の中で束ねる形をとってきた。要員を統合し、同じ体力で守る範囲を広げる動き
  • 8月10日の検証案が示した方向は、統合の促進ではなく持続性と協創。DX事例の横展開、託送料金へのエスカレーション算入、計画期間の5年化を2026年度中を目途に実施する
  • 189という数を減らさずに持たせる設計であり、規模の差は前提として残る