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読み解き 他社事例 地図:電力・新事業 2026年9月10日(木) 6:00

導管のない客に、ガスを売る

大阪湾で初のShip to Ship。相手は海外船社、仲介はシンガポール

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都市ガスの商売は、導管でつながった相手に売ることを前提に組み立てられてきました。9月4日に神戸港で起きたのは、その前提が要らない取引です。

① いま、何が起きているのか

2026年9月4日、大阪ガスが、大阪湾で初となるShip to Ship方式による船舶向けLNG燃料供給(LNGバンカリング)を実施したと公表しました。LNGバンカリング船「SETO AZURE」から、神戸港に入港したLNG燃料自動車運搬船に燃料を供給した、という内容です。

Ship to Shipは、岸壁に係留中または錨地に停泊中のLNG燃料船に、バンカリング船が接舷して供給する方式を指します。リリースの注記によれば、今回の供給はシンガポールの船舶燃料取引会社Integr8 Fuels社を介し、海外船会社が運航する船に対して行われました。あわせて、神戸港のカーボンニュートラルポート形成に寄与するもの、と位置づけられています。

出典:大阪ガス「大阪湾で初となるShip to Ship方式によるLNG燃料供給を自動車運搬船に対して実施」(2026年9月4日)

ここに至るまでの段取りは、過去のリリースに順を追って残っています。

  • 2019年:Truck to Ship方式(岸壁に駐車したLNGタンクローリーから供給)を開始
  • 2025年4月21日:Shore to Ship方式(陸上LNGターミナル等から供給)を、都市ガス事業者として初めて開始。泉北製造所第二工場で、商船三井が運航するJFEスチール向けの鉄鋼原料船に第一隻目を実施
  • 2026年3月5日:LNGバンカリング船「SETO AZURE」の命名式。大分県臼杵市の下ノ江造船で建造。大阪ガスインターナショナルトランスポートが出資する大阪湾LNGシッピングが所有
  • 2026年4月21日:同社初となるShip to Ship方式を、JFEスチール西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)で開始。「SETO AZURE」は同月9日に竣工。これで主要3方式での供給体制が確立
  • 2026年9月4日:大阪湾では初となるShip to Shipを、神戸港で実施

出典:大阪ガス「都市ガス事業者として初めて、Shore to Ship方式による船舶向けLNG燃料供給事業を開始」(2025年4月21日)/大阪ガス「当社初となるLNGバンカリング船の命名式を実施」(2026年3月5日)/大阪ガス「Ship to Ship方式による船舶向けLNG燃料供給(LNGバンカリング)を開始」(2026年4月21日)

7年かけて、ローリー・岸壁・船という3つの届け方が揃い、その4か月半後に大阪湾へ回ってきた、という並びです。

② なぜ、これが重要なのか

都市ガス事業の需要は、導管という設備によって輪郭が決まってきました。管が通っている場所に、契約している需要家がいる。供給区域の外側は、原則として商圏になりません(都市ガスが届くまでの解説)。

バンカリングは、その外側にある需要です。相手は供給区域に住んでいないどころか、数日で港を出ていきます。しかも今回の供給先は海外船会社が運航する自動車運搬船で、間に入ったのはシンガポールの燃料取引会社でした。4月の第一船が国内鉄鋼メーカーの原料船だったのに対し、9月の相手は国際的な船舶燃料の取引の流れの中から来ています。需要家台帳に載る顧客ではない、という点が一段はっきりした形です。

方式が3つ揃ったことの意味は、設備が3つになったことではありません。船の大きさ、係留場所、必要量、日程によって使える方式は変わります。寄港のかたちに合わせて届け方を選べる、ということです。届け方が一つしかなければ、条件の合わない船は他港へ行きます。

③ だとすると、業界はこう動く

一つめは、需要の測り方が変わることです。 導管の需要は、契約と検針で把握できます。港の需要は、どの船がいつ寄るかで決まり、船側の投資判断(LNG燃料船を持つかどうか)と、その船の航路によって左右されます。ガス会社の販売計画に、海運の設備投資と航路の話が入ってくる。国内の需要構造の議論とは別の変数です(需要構造の解説章)。

二つめは、取引の相手が国際市場側になることです。 燃料取引会社を介して海外船社に供給する形では、価格や条件は国内小売の作法では決まりません。船舶燃料は世界中の港で買えるので、どこで積むかは船社側が選びます。リリースに価格や契約形態の記載はありませんが、「日本の港で積む理由があるか」を問われる立場になること自体は、供給体制が揃った時点で確定しています。

三つめは、この設備がe-メタンの受け皿として説明されていることです。 一連のリリースはいずれも、将来的に船舶燃料として供給するLNGをe-メタンに置き換えることで脱炭素化につなげられる、と書いています(9月4日のリリースではバイオメタンも併記されています)。メタネーションの議論は作る側の経済性に集まりがちですが、作ったものを届ける経路も要ります。既存のLNG設備をそのまま使える点は、e-メタンが持ち出す数少ない構造上の利点でした。バンカリングは、それが具体的な出口として現れた場所のひとつです(メタネーションの解説章)。

ただし、置き換えが成り立つかどうかは、e-メタンの製造コストと調達量の話に戻ります。設備が使えることと、燃料が用意できることは別です。

④ 経営として、何を問われるのか

自社のLNG基地は、いま何のための設備として説明されているでしょうか。

多くの場合、答えは「都市ガスの原料を受け入れ、気化して導管に送るため」です。バンカリングが示したのは、同じ基地が、導管に入らないまま出ていく需要にも接続できるということでした。海運に限らず、トラック、内航船、系統から遠い産業用——液のまま出す先は、燃料転換が進むほど増えます。

ここで問われるのは投資の是非より前に、社内の数え方です。液で出た分は、販売量のどこに計上され、誰の目標になっているのか。導管の需要が細るときに備える話をしているのに、備える先の数字が誰の担当でもない、ということが起こりがちです。

まとめ(3行)

  • 2026年9月4日、大阪ガスが大阪湾で初となるShip to Ship方式のLNGバンカリングを神戸港で実施。主要3方式(Truck to Ship=2019年、Shore to Ship=2025年4月、Ship to Ship=2026年4月)の体制は今年4月に揃っていた
  • 供給はシンガポールの燃料取引会社を介した海外船会社向け。導管でつながった需要家ではなく、国際的な船舶燃料の取引から来る需要で、販売計画には海運側の投資と航路という別の変数が入る
  • 一連のリリースはいずれも、将来のe-メタンへの置き換えを出口として書いている。既存LNG設備を使えることが利点だが、成否は製造コストと調達量の側に残る

この記事の一次資料(4)

  1. 大阪ガス「大阪湾で初となるShip to Ship方式によるLNG燃料供給を自動車運搬船に対して実施」(2026年9月4日)
  2. 大阪ガス「都市ガス事業者として初めて、Shore to Ship方式による船舶向けLNG燃料供給事業を開始」(2025年4月21日)
  3. 大阪ガス「当社初となるLNGバンカリング船の命名式を実施」(2026年3月5日)
  4. 大阪ガス「Ship to Ship方式による船舶向けLNG燃料供給(LNGバンカリング)を開始」(2026年4月21日)

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