電気の託送料金は、2023年度に始まったレベニューキャップ制度のもとで、早くも「物価上昇にどう対応するか」という次の調整に入っています。一方、同じ入口に立っているはずの都市ガスの導管は、まだそこにたどり着いていません。制度の先にいるのはどちらで、その差は何を意味するのか。導管・託送という、業界のインフラを支える仕組みの「いま」を掘ります。
背景 — なぜ今、これを掘るのか
都市ガスは導管という共用インフラの上に競争を成り立たせる事業です(導管ネットワークと託送の章)。自由化にともない、大手の都市ガス事業者は導管部門を別会社として切り分ける「法的分離」を実施しました。東京ガスネットワーク、大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワークという3つの導管専業会社が生まれたのは2022年4月のことです。改正ガス事業法は、この法的分離を含む制度改革の効果を、施行から5年を目安に検証すると定めており、その期限が2027年3月に迫っています。
出典:資源エネルギー庁「ガスシステム改革及び熱供給システム改革の促進」(令和6年度エネルギーに関する年次報告)
法的分離によって「誰が導管を公平に使えるか」は一応片づきました。しかし、その先に残る論点があります。導管を維持・更新する費用を、どういうルールで料金に乗せるのか——いわば「原資の決め方」です。電気の世界では、この論点への答えがすでに動いています。都市ガスの導管は、まだ動いていません。
論点① 電気は、もう「次の調整」に入っている
一般送配電事業者(電気の送配電網を持つ会社)の託送料金は、2023年度から「レベニューキャップ制度」という仕組みで決まっています。複数年(第1規制期間は2023〜2027年度)の収入の上限をあらかじめ決め、その範囲で効率化を促すという規律です。
ところが制度を始めてみると、想定していなかった物価・金利の上昇が重くのしかかりました。電力・ガス取引監視等委員会は2025年10月22日の料金制度専門会合で、労務費単価や物価上昇の影響を託送料金に反映するための制度措置について、対象年度を2026年度から2年間(2026・2027年度)とする方向で検討を進める考えを事務局から示しました。この検討の初報は7月の記事で取り上げています。今回はその続き——検討がどこまで実行段階に進んだか、そしてガスの側はどこにいるのかを見ます。
出典:電気新聞「レベニューキャップ、物価高反映は26年度から/監視委」(2025年10月23日)
この検討は、すでに実行段階に移っています。2026年9月4日、経済産業大臣は一般送配電事業者8社の「託送供給等に係る収入の見通し」の変更(期中調整)を承認しました。中部電力パワーグリッドの場合、第一規制期間全体で1,374億円の増額、適用期間(2026年11月〜2028年3月)の年平均の増加影響は970億円。新しい単価は2026年11月1日から適用される予定です。
出典:中部電力パワーグリッド「『託送供給等に係る収入の見通し』の変更(期中調整)承認について」(2026年9月4日)
つまり電気の託送は、「複数年の上限を決める→情勢が変われば期中に直す」というサイクルを、制度開始からわずか3年あまりで一周させています。
論点② ガスの導管は、まだ「その手前」にいる
都市ガスの導管に目を移すと、景色が変わります。現在の託送料金は、必要な費用を積み上げて事業報酬を乗せる、総括原価方式がベースです。電気のように複数年の収入上限をあらかじめ固定し、情勢変化を期中に反映するレベニューキャップ型の規律は、導入されていません。
これは制度が遅れているというより、順序の違いとも読めます。ガスはまず2022年4月の法的分離で「誰が公平に導管を使えるか」を整えました。電気が発送電分離を経て2023年度にレベニューキャップへ進んだのと同じ道をたどるなら、ガスの「次の一手」は、2027年3月の検証のタイミングに来る可能性があります。
もっとも、ガスの導管が電気と同じ重荷を抱えていないわけではありません。ビジネスモデルの章で見たとおり、都市ガスは装置産業で固定費が重く、需要構造の章で扱う人口減少は、一人あたりの維持コストを押し上げます。原資をどう確保するかという問いの切実さは、電気と変わりません。制度の道具立てだけが、まだ追いついていないのです。
論点③ 先に動いた電気の経験は、手本にも反面教師にもなる
電気の経験は、ガスにとって二つの顔を持ちます。
一つは手本としての顔です。レベニューキャップの「上限を決めて効率化を促す」という設計思想自体は健全です。ガスが同じ規律を取り入れるなら、電気が3年間運用して直面した課題——物価上昇という外部要因にどう対応するか——を、設計の最初から織り込める可能性があります。後から動く側には、後から動く側の利点があります。
もう一つは反面教師としての顔です。電気の期中調整では、低圧(家庭向け)の基本料金に重く乗った区分もありました。複数年の上限を決めても、その配分まで最初から公平に決まるわけではないという現実を、電気はすでに見せています。ガスが同じ制度を導入するとき、配分の設計をどこまで事前に詰められるかが問われます。
反対から見ると
ここまでの比較には、留保が要ります。電気とガスでは、事業者の数も、導管網の構造も、地域独占の性格も同じではありません。電気の制度をそのままガスに当てはめられるという前提自体が単純化です。また、「ガスが遅れている」という見立ても一面的で、2027年3月という検証の期限は、急いで制度を変えるためではなく、まず法的分離の効果を見極めるために置かれたタイミングという見方もできます。遅いこと自体を問題視するより、その期限に何が俎上に載るかを見る方が実りがあります。
仕事への問い
導管や託送の実務に関わる立場なら、自分の会社の託送料金が今どの算定方式で決まっているか、電気の期中調整のような仕組みが来たときに何が変わるかを、説明できるでしょうか。料金設計や企画に関わる立場なら、電気ですでに起きている「物価上昇の期中反映」が自分の担当する制度に来たとき、最初に確認すべき数字は何でしょうか。2027年3月の検証は、まだ先の出来事に見えて、設計の材料はすでに電気の3年間の運用の中に出ています。
まとめ(3〜5行)
- 都市ガスは2022年4月の大手3社の導管部門法的分離で「公平に使える導管」を整えたが、電気のレベニューキャップのような複数年の収入規律はまだ導入されていない
- 電気は2023年度にレベニューキャップを開始。2025年10月22日の料金制度専門会合で物価上昇の期中反映を検討し、2026年9月4日に承認、2026年11月1日から新単価を実施する(中部電力パワーグリッドは年平均970億円増)
- ガスの「次の一手」は2027年3月の制度検証に来る可能性がある。電気の3年間の運用は、ガスにとって手本にも反面教師にもなりうる
この記事の一次資料(3)
- 資源エネルギー庁「ガスシステム改革及び熱供給システム改革の促進」(令和6年度エネルギーに関する年次報告)
- 電気新聞「レベニューキャップ、物価高反映は26年度から/監視委」(2025年10月23日)
- 中部電力パワーグリッド「『託送供給等に係る収入の見通し』の変更(期中調整)承認について」(2026年9月4日)
記事の数字・範囲を限る言葉・増減の向き・因果は、公開前に別のAIがこれらの資料の原文と照合しています(編集と検証のしかた)。正確な判断が必要なときは、原文をご確認ください。
あなたの声を聞かせてください
1タップで答えられます。集計はその場で見られます。
この話、あなたの仕事との距離は?
よければ教えてください(最初の1回だけ・任意)
「同じ業務の人はこう答えた」を表示できるようになります。この端末にだけ保存され、名前などは聞きません。
回答は匿名で集計します。寄せられた声は、記事と解説づくりに使います。取り扱いについて