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読み解き 脱炭素 地図:脱炭素 2026年11月2日(月) 6:00

捨てられていた牛ふんが、発電所になった

鴻池組ら6社、富士宮の酪農地帯で乾式メタン発酵プラント稼働

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静岡県富士宮市の酪農地帯で、乳牛の糞が電気とガスに変わる仕組みが動き出しました。建設会社を中心とする6社が出資するプラントが10月21日に運転を開始し、排水をほぼ出さない処理方式を採用しています。ガスを作る技術そのものが広がっていく、脱炭素の話です。

① いま、何が起きているのか

株式会社鴻池組を中心に、株式会社クラフティア、静岡ガス&パワー株式会社、株式会社ビーエイブル、富士バイオテック株式会社、株式会社KSバイオマスエナジーの6社が出資する朝霧バイオガス合同会社(農産物処理加工)・朝霧バイオパワー合同会社(バイオガス発電)は、静岡県富士宮市根原字宝山で「富士山バイオマス乾式メタン発酵プラント」の運転を2026年10月21日に開始しました。出資会社の一社である静岡ガス&パワーが10月30日にこの運転開始を発表しています。原料は、日本有数の酪農地帯である富士宮市朝霧地区で出る乳牛糞で、年間最大27,800トンを受け入れる計画です。

出典:静岡ガス&パワー「『富士山バイオマス乾式メタン発酵プラント』運転開始」(2026年10月30日)

発酵槽はドイツBEKON社製のバッチ式乾式メタン発酵設備です。国内で主流の湿式メタン発酵と異なり、前処理設備や排水設備が不要で、消化液を循環利用するため原則として外部への排水が出ないことが特徴だといいます。発生するバイオガスは年間2,909,100Nm³を見込み、うち2,382,500Nm³を発電用に、残り526,500Nm³を余剰ガスとして販売する計画です(販売先は発表文に記載がありません)。発電設備はドイツ2G社製のCHPガスエンジンで、発電出力は546kW、年間発電量は4,560MWh(一般家庭の年間平均消費電力量の約1000世帯分に相当)を見込み、FIT制度(固定価格買取制度)で東京電力に売電します。発電時に出る排熱は、堆肥製造施設やメタン発酵設備の運転に再利用されます。発酵槽から出る消化液は、敷地を提供する富士バイオテック株式会社に処理委託し、堆肥の原料として活用されます。

朝霧バイオマスプラントの流れ 乳牛糞(朝霧地区の酪農地帯) 年間受入 最大27,800t バッチ式乾式メタン発酵槽 前処理・排水設備は不要 バイオガスを回収 年間2,909,100Nm³ 発電546kW・FIT売電 消化液は堆肥原料へ
図:乳牛糞から発酵槽を経てバイオガス・電気・堆肥に分かれる流れ(出典:静岡ガス&パワー発表・2026年10月30日)

② なぜ、これが重要なのか

国内で主流のメタン発酵は「湿式」で、前処理設備や排水処理設備が必要になります。メタネーションの解説章が説明する合成メタン(e-メタン)が、CO2と水素から化学的にメタンを作る集中型・大規模型の技術であるのに対し、今回のプラントが採用した「バッチ式乾式メタン発酵」は、前処理設備や排水設備を使わず、消化液を循環利用することで外部排水を原則ゼロに抑える方式です。

もう一つの注目点は、畜産廃棄物の処理と再生可能エネルギーの発電を組み合わせている点です。乳牛糞は通常、堆肥化処理だけで終わりますが、今回のプラントはその前処理の段階でバイオガスを取り出し、発電・売電にまでつなげています。カーボンニュートラルの解説章が説明するとおり、ガス業界の脱炭素戦略の基本は「中身を入れ替える」ことですが、今回生まれるバイオガスの大半(年間2,382,500Nm³)はFIT制度による発電・売電に回り、残り526,500Nm³は余剰ガスとして販売されるものの、その販売先・用途は発表文に書かれていません。脱炭素ガスの原料調達には、合成メタンという一つの道だけでなく、地域に元からある未利用資源を使う道もあることを示す事例です。

③ だとすると、業界はこう動く

このプラントが示すのは、脱炭素技術が必ずしも一つの正解に集約されるわけではなく、地域の資源構成に応じて複数の経路に分かれていく可能性があることです。今回の出資会社6社には建設会社や酪農関連企業が名を連ね、ガス事業者は一社にとどまります。酪農地帯や食品産業の集積地を営業エリアに持つガス事業者にとって、自分たちの地域にどんな未利用資源があるか、それをエネルギーに変える選択肢があるかどうかは、今後の検討材料になり得ます。

ただし、今回の発表文には、生産したバイオガスを都市ガス導管に直接注入するという記載はありません。出口は発電とFIT売電であり、合成メタンのように「導管にそのまま流し込む」技術として位置づけられているわけではない点には注意が必要です。畜産廃棄物由来のバイオガスが将来、都市ガスの原料として導管に注入される「バイオメタン」化が進むかどうかは、今回の発表からは読み取れません。

④ 自分の仕事では、どう考えるか

設備やプラントの保安・維持管理に関わる仕事なら、乾式メタン発酵という、国内でまだ主流ではない方式がどこまで広がりうるか、点検や保守の勝手が従来の湿式方式とどう違うのか、気になるところではないでしょうか。地域の脱炭素事業や再エネ事業の企画に関わる仕事なら、自社の営業エリアに今回のような未利用資源——家畜ふん尿や食品残渣など——がどれだけ眠っているか、一度思い浮かべてみてください。直接の担当でなくても、「ガスを作る方法」が合成メタンだけでなく、こうした地域発のバイオガスにも広がっていることは、頭の片隅に置いておきたい変化です。自分の仕事に引きつけると、どんな問いが立つでしょうか。

まとめ(3行)

  • 鴻池組を中心に静岡ガス&パワーなど6社が出資する朝霧バイオガス合同会社・朝霧バイオパワー合同会社が、富士宮市で乾式メタン発酵プラントの運転を10月21日に開始した
  • 乳牛糞を原料に、排水をほぼ出さない方式でバイオガスを作り、発電(546kW・年間4,560MWh)をFIT制度で東京電力に売電する
  • 合成メタンとは異なる経路で、地域の未利用資源を脱炭素ガス・電気に変える取り組みの一例

この記事の一次資料(1)

  1. 静岡ガス&パワー「『富士山バイオマス乾式メタン発酵プラント』運転開始」(2026年10月30日)

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