政府のパワーGX、神戸港のLNGバンカリング、JKMの約2年半ぶりの高値、東邦ガス向けの新造LNG船。この2週間の4本は、政策・事業・市況・設備と入口がばらばらでした。並べ直すと、共通して問われていたのは「どれだけあるか」ではなく、「どこを通って届くか」です。
この2週間の3つの動き
① 政府の資料が、経路で書かれた(9/7 脱炭素)
8月26日の第17回GX実行会議で取りまとめられたパワーGXは、調達の柱に原油とナフサを置き、調達先・輸送経路の多角化や、非ホルムズ経路の増強に資する代替パイプラインの建設支援を並べました。前提に置かれたのは、原油輸入の中東依存度が2024年度で95.9%という数字です。全体の石油依存は下げてきたのに、残った分が一本の海峡に寄っている。
ガスが正面から出てくるのは、調達の柱ではなく、電力需要を支える供給力(天然ガス火力等の最大限活用)と、合成メタン等の化石代替燃料の欄でした。同じ資料がものづくり現場の電化も進めている。都市ガスは、どの欄に書かれるかで役回りが変わる立場にあります(エネルギー安全保障の解説章)。→ パワーGXの記事
② 導管の外に、届け方ができた(9/10 他社事例)
9月4日、大阪ガスが大阪湾で初となるShip to Ship方式のLNGバンカリングを神戸港で実施しました。相手は海外船会社が運航する自動車運搬船で、間にシンガポールの燃料取引会社が入っています。ローリー(2019年)、岸壁(2025年4月)、船(2026年4月)と、3つの届け方が揃ったあとの一件です。
都市ガスの需要は、導管が通っている場所で輪郭が決まってきました。バンカリングの相手は数日で港を出ていく船です。届け方を複数持つことで、はじめて顧客になる需要がある(都市ガスが届くまでの解説)。→ バンカリングの記事
③ 値差が足りず、分子が来ない(9/14 市況・地政学、9/17 他社事例)
JOGMECの週次レポートによれば、JKM(10月受渡)は9月10日に28ドル後半と約2年半ぶりの高値をつけ、11日も28ドル半ばを維持しました。同じ週、米国ヘンリーハブは3.0ドルから2.8ドルへ下落し、米国の在庫は過去5年平均を4.8%上回っていた。上昇要因には、中東情勢によるリスクプレミアムの拡大と並んで、米国産LNGのアジア向け裁定取引が閉じていることによる供給懸念が挙げられています。産地で余っていても、航海分の値差がなければ船は来ません。
その週に、東邦ガスの子会社と川崎汽船の合弁が保有する新造LNG船「TOHO EMERALD」が命名されました。2019年の「Diamond Gas Sakura」は4社保有で東邦側の持ち分は10%、キャメロンLNG輸送用という案件の船でした。今回の用途は「当社向けのLNG輸送など」で、竣工は10月の予定です。運ぶ手段の一部を、自分の側に寄せる形です(LNG市場のしくみ)。→ JKM高値の記事/TOHO EMERALDの記事
横串の視点──量の言葉では、説明が止まる
4本を並べて見えるのは、これまで「量」の言葉で語られてきた問題が、「経路」の言葉でないと説明できなくなっていることです。
「足りないから高い」なら、打ち手は増産や長期契約の積み増しです。「届かないから高い」なら、効くのは航路、配船、契約の柔軟性、そして届け方の選択肢のほうになります。パワーGXが代替パイプラインを書き、バンカリングが届け方を3つ揃え、東邦ガスの子会社が合弁で社名入りの船を持つことにしたのは、いずれも後者に手を入れる動きとして読めます。
前回のまとめでは、モノと書類が切り離されていく話をしました。今回はその逆側、モノが物理的にどこを通るかの話でした。書類は国境を越えて移せても、分子は値差と海峡と船腹の条件を満たさなければ動かない。両方を見ないと、調達の説明は半分で止まります。
来週への問い
値が上がったとき、社内やお客さまへの説明に「世界的な需給逼迫」という言葉を使っていないでしょうか。
9月第2週に限れば、逼迫していたのは分子ではなく、航路と値差でした。説明の言葉が実態からずれたままだと、打ち手も量の側に寄っていきます。自社の調達計画のうち、「経路」について書かれている行は何行ありますか。
まとめ(3行)
- この2週間は4本。パワーGX、神戸港のShip to Shipバンカリング、JKMの約2年半ぶりの高値、東邦ガス向け新造LNG船「TOHO EMERALD」の命名と題材はばらけたが、いずれも「どこを通って届くか」の話だった
- 政府資料は非ホルムズ経路の増強を書き、大阪ガスは導管の外へ船で届け、東邦ガスの子会社は川崎汽船との合弁で運ぶ手段を持つ(10月竣工予定)。市況では、米国の在庫が5年平均を上回るなかでJKMが上がり、裁定取引が閉じていることが要因に挙げられた
- 「足りない」と「届かない」は打ち手が違う。量の言葉で説明を止めず、経路の言葉で調達計画を点検できているかが問われる
※ 筆者は都市ガス事業者に勤務しています。本記事は公表情報のみに基づく個人の見解です。
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