西部ガスと西部ガス熊本が、肥後銀行の開発したCO2排出量可視化システム「炭削くん」を、地域の企業に提案・紹介するビジネスマッチング契約を結びました。ガス会社が売り込むのは、ガスではなく脱炭素の”道具”です。ガスそのものを替えていく、脱炭素の話です。
① いま、何が起きているのか
西部ガスと西部ガス熊本は2026年10月1日、株式会社肥後銀行と、CO2排出量可視化システム「炭削くん」の普及促進に関するビジネスマッチング契約を締結したと、10月2日に発表しました。リリースから確認できる内容は次のとおりです。
- 「炭削くん」は肥後銀行が開発したシステムで、自社の直接排出(Scope1)、エネルギー利用に伴う間接排出(Scope2)、サプライチェーン全体で発生する排出(Scope3)までのCO2排出量算定・可視化に対応する
- ISO14064-3認証取得済みの算定ロジックを採用し、低価格で導入できるのが特徴。導入実績は累計5,150社(2026年3月末時点)
- 役割分担は明確で、肥後銀行がシステムの運営・提供を担い、西部ガス・西部ガス熊本は地域の企業に「炭削くん」を脱炭素経営を支援するソリューションの一つとして提案・紹介する
- 背景として、取引先からの排出量開示要請やサプライチェーン全体での排出量管理の重要性が高まる一方、中小企業を中心に算定ノウハウや人的リソースの不足、システム導入コストが課題になっていると説明している
- 西部ガスグループは中期経営計画「ACT2027」で「地域のカーボンニュートラルの実現」を重要な取り組みの一つに掲げている
出典:西部ガス・西部ガス熊本「肥後銀行との『CO₂排出量可視化システム「炭削くん」』に関するビジネスマッチング契約の締結について」(2026年10月2日)
② なぜ、これが重要なのか
CO2排出量の算定・開示を求める圧力は、まず大口の排出者に向かいます。GX-ETSの記事で取り上げたとおり、2026年度から義務化された排出量取引制度の対象は、3年平均で年10万トン以上を排出する300〜400社程度です。しかし今回のリリースが説明している課題はその先にあります。対象企業が自社の排出量を減らそうとすると、サプライチェーン全体の排出量(Scope3)を把握する必要が出てきて、その対象には取引先の中小企業が含まれます。開示を求められる側に回るのは、直接の義務対象ではない企業です。
一方で中小企業には、算定ノウハウも人手も、システム導入コストをかける余力も限られています(カーボンニュートラルの全体像の章)。この壁を埋める役回りに、ガス会社が加わったのが今回の契約です。ただし西部ガスは「炭削くん」を自ら開発したわけではありません。開発・運営は肥後銀行が担い、西部ガス・西部ガス熊本は地域の企業との接点を生かして「提案・紹介」する立場です。脱炭素ツールの担い手が一つに決まらず、金融とガスという異なる業種が役割を分けて進める形になっています。
③ だとすると、業界はこう動く
一つめは、ガス会社が「紹介役」として脱炭素ビジネスに関わる形が広がる可能性です。 自社でシステムを開発する投資をせずに、他社が開発したツールを自社の顧客基盤に乗せて届ける。ガス会社は検針や営業を通じて中小企業との接点を豊富に持っており、この接点そのものが商材になります。
二つめは、金融機関との連携パターンが他地域にも広がりうることです。 炭素会計のツールを開発するのは必ずしもガス会社の得意分野ではありませんが、地域金融機関にとっては、融資先企業との関係を生かして開発したツールの販路が欲しいという事情があります。地域に根ざしたガス会社と銀行は、同じ中小企業の顧客基盤を共有しており、提携の土台がすでにあります。
三つめは、中小企業側のデータが積み上がっていくことです。 「炭削くん」の導入が広がれば、これまで算定されていなかった中小企業のCO2排出量が可視化されていきます。これは、取引先にScope3の開示を求める大口排出者側にとっても、算定の材料が増えることを意味します。義務化が大口から始まり、裾野のデータ整備は取引先を巻き込みながら後から追いつく——そういう順番が透けて見えます。
④ 自分の仕事では、どう考えるか
法人営業やお客さま対応に関わる立場なら、自分が担当する企業の中に、取引先から排出量の開示を求められている先がどれだけあるか、把握しているでしょうか。企画や新規事業に関わる立場なら、「自社で開発せず、他社のツールを自社の顧客接点に乗せて紹介する」という今回の形が、脱炭素以外のどんな分野でも使えるか、考えてみる材料になります。自分の担当する顧客やサービスに、同じような紹介役の余地はあるか。その問いに、何から確かめて答えるでしょうか。
まとめ(3行)
- 西部ガスと西部ガス熊本は2026年10月1日、肥後銀行とCO2排出量可視化システム「炭削くん」の普及促進に関するビジネスマッチング契約を締結した(10月2日発表)
- システムの開発・運営は肥後銀行が担い、西部ガス・西部ガス熊本は地域の企業へ提案・紹介する役割。背景には、取引先からの排出量開示要請に対し、算定ノウハウや人員が不足する中小企業の課題がある
- 「炭削くん」は累計5,150社が導入(2026年3月末時点)。ガス会社が脱炭素ツールの開発者ではなく、地域の顧客接点を生かした”紹介役”として動く事例になった
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