前週、ホルムズ海峡の通航制約という同じ材料を受けながら、北東アジアのLNG価格JKMは24ドル台後半へ下がり、欧州のTTFは24ドル台後半へ上がりました。地政学的なリスクは両者に効いたはずなのに、値段は反対を向いています。日本がLNGを買う値段を決める、調達の話です。
① いま、何が起きているのか
JOGMECの週次価格動向(2026年10月5日掲載、9月28日〜10月2日の週)が伝えている内容です。
- JKM(北東アジア、11月受渡)は、前週末(9月25日)の25ドル前半から、10月2日には24ドル後半へ下落。週初はホルムズ海峡の通航制約への懸念から25ドル後半まで上昇したが、米国・イラン間の停戦協議進展への期待と、中国・韓国を中心とするアジアの買い需要の低迷を背景に、30日には24ドル前半まで下げた。その後、ホルムズ海峡の供給リスクと11月積みカーゴの供給逼迫懸念が再び意識されて10月1日に25ドル半ばへ反発したが、2日には東アジアの買い意欲の低迷と暖冬見通しを背景に、再び24ドル後半まで下落した
- TTF(欧州、11月限月)は、前週末(9月25日、10月限月)の24.1ドルから、10月2日には24.6ドルへ上昇。週初は中東情勢の供給懸念と欧州の低い地下ガス貯蔵水準が意識されて24.5ドルまで上がったが、29日には米国・イラン間の停戦協議進展への期待とノルウェーからの供給増加、中国向けLNG需要の低迷を背景に23.2ドルまで急落。限月が11月に切り替わるなかで、冬季の供給リスクと欧州の地下ガス貯蔵率が前年を大きく下回る状況が改めて意識され、2日に24.6ドルまで戻った
- HH(米国、11月限月)は、前週末(9月25日、10月限月)の3.2ドルから、10月2日には3.0ドルへ下落。中西部・南東部での温暖な気温予測から暖房需要の見通しが低下したことが背景
- EU全体の地下ガス貯蔵率(AGSI+)は10月2日時点で72.2%(前週末の70.6%から上昇)。ただし貯蔵量は前年同時期比13.3%減、過去5年平均比17.5%減と、水準自体は低いままだった
- 日本の発電用LNG在庫(9月27日時点、経済産業省が9月30日発表)は241万トンで、前週比11万トン減
出典:JOGMEC「天然ガス・LNG関連情報(週次価格動向)」(2026年10月5日掲載)(同ページは週次で更新されます)
② なぜ、これが重要なのか
地政学的なリスクが上がると、価格には「リスクプレミアム」が乗ります(エネルギー安全保障の解説章)。今週のレポートが示しているのは、同じホルムズ海峡の通航制約という材料が、JKMとTTFの両方に一度は価格を押し上げる方向で効いたという事実です。JKMは週初に25ドル後半まで、TTFも24.5ドルまで、いずれもリスクを意識して上がりました。
ところが、その後の動きが分かれました。JKMは北東アジアの買い需要が弱いことで、上がった分を吸収しきれずに下落に転じています。中国・韓国の需要低迷に、暖冬見通しという需要側の弱さが重なりました。一方のTTFは、米国・イラン間の停戦協議進展やノルウェーの供給増加という「下げる材料」が出ても、欧州の地下ガス貯蔵率が前年同時期比13.3%減、過去5年平均比17.5%減という構造的な低さを抱えているため、下げ切れずに上昇へ戻っています。地政学リスクという同じ入り口に立っても、その先で効くのは需要の強さと貯蔵の薄さという、別々の事情だということです(LNG市場のしくみの解説章)。
③ だとすると、業界はこう動く
一つめは、「地政学リスクが上がる=価格が上がり続ける」とは限らないことです。 JKMはリスクを受けても、北東アジアの需要が弱ければ吸収されて下がります。中東情勢のニュースだけで日本の調達価格の先行きを判断すると、需要側の実態を見落としかねません。
二つめは、欧州の貯蔵不足が一時的なニュースでは消えない構造要因であることです。 貯蔵量が前年比13.3%減、5年平均比17.5%減という水準は、停戦協議の進展やノルウェーの供給増加といった個別の好材料が出ても、すぐには埋まりません。冬にかけて欧州がLNGの確保を急げば、北東アジアとの奪い合いが強まる可能性があります。
三つめは、日本国内の在庫の動きです。 発電用LNG在庫は241万トンで前週比11万トン減となりました。冬の需要期に向けて在庫がどう積み上がるか、あるいは積み上がらないかは、スポット価格の動きと合わせて見ておく材料になります。
④ 自分の仕事では、どう考えるか
原料費調整や需給管理、発電所の燃料計画に関わる仕事なら、社内で「LNGが上がった」「下がった」と話すとき、それが地政学ニュースによる一時的な動きなのか、欧州の貯蔵不足のような構造的な要因なのかを、分けて説明できているでしょうか。今回のように、同じ中東リスクを受けても、需要の弱いアジアでは吸収され、貯蔵の薄い欧州では効いて残る、という違いが生まれます。自分が普段見ている価格の動きが、どちらの性質に近いか——その問いを、次に価格が動いたときに自分に向けてみてください。
まとめ(3行)
- JKM(北東アジア)は9月25日の25ドル前半から10月2日に24ドル後半へ下落、TTF(欧州)は24.1ドルから24.6ドルへ上昇。同じホルムズ海峡の通航制約という材料を受けながら、方向が分かれた
- 分かれた理由は、JKMがアジアの需要低迷で上昇分を吸収し、TTFが欧州の地下ガス貯蔵不足(前年比13.3%減、5年平均比17.5%減)という構造要因で下げ切れなかったこと
- 日本の発電用LNG在庫は9月27日時点で241万トン、前週比11万トン減。冬季需要に向けた在庫の積み上がり方も、スポット価格と合わせて見ておく材料になる
この記事の一次資料(1)
記事の数字・範囲を限る言葉・増減の向き・因果は、公開前に別のAIがこれらの資料の原文と照合しています(編集と検証のしかた)。正確な判断が必要なときは、原文をご確認ください。
あなたの声を聞かせてください
1タップで答えられます。集計はその場で見られます。
この話、あなたの仕事との距離は?
原料費が動いたとき、「一時的なニュース」か「構造的な要因」かを見分けていますか?
よければ教えてください(最初の1回だけ・任意)
「同じ業務の人はこう答えた」を表示できるようになります。この端末にだけ保存され、名前などは聞きません。
回答は匿名で集計します。寄せられた声は、記事と解説づくりに使います。取り扱いについて