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読み解き 特集 地図:電力・新事業 2026年10月24日(土) 6:00

蓄電池に手を伸ばしたのは、電力会社ではなかった

東京ガス・大阪ガス・西部ガスの蓄電池参入から「第二の柱」の実像を掘る

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系統用蓄電池と聞いて、まず名前が挙がるのは電力会社のはずです。ところが2023年ごろから、この分野に次々と参入しているのはガス会社でした。東京ガス、大阪ガス、西部ガス——電気を売る前に、電気を貯める会社になっている事業者がいます。この特集では、ガス会社が電力・蓄電池・再エネを事業の「第二の柱」に育てようとする動きの実像を、公表されている数字から掘ります。ガス管の外へ、仕事の種を広げる電力・新事業の話です。

背景 — なぜ今、これを掘るのか

総合エネルギー化の解説章が説明しているとおり、電力とガスの小売全面自由化(2016年・2017年)以降、各社は「ガス会社」から「総合エネルギー企業」への転換を中期経営計画で掲げてきました。セット販売から始まった垣根の溶解は、いまガス会社自身が発電・蓄電池事業の担い手になるという形まで進んでいます。

背景には、電力そのものの構造変化があります。ガス火力と電力システムの解説章が扱うとおり、太陽光・風力は天候で出力が変動するため、電力システムには出力を機動的に調整する”支え役”が必要です。この役割をこれまで主に担ってきたのがガス火力ですが、近年は系統用蓄電池も同じ機能を果たす手段として存在感を増しています。

実際に起きている動きを、発表日の順に並べます。

  • 大阪ガス:2023年6月7日、伊藤忠商事・東京センチュリーと共同で、大阪ガスネットワークの千里供給所内に系統用蓄電池「千里蓄電所」(定格出力1.1万kW・定格容量2.3万kWh)を設置する事業への参入を発表。大阪ガスグループは2030年度までに、自社開発・保有分と他社からの調達分を合わせて国内外で500万kWの再エネ電源普及に貢献する目標を掲げています。
  • 大阪ガス:同年6月26日、米ニューヨーク州スタテンアイランドでの系統用蓄電池事業(定格出力0.77万kW・定格容量3.08万kWh、米Summit Ridge Energy, LLCと)と、バージニア州での分散型太陽光発電事業(新規開発計10万kW超)への参画を発表。
  • 西部ガス:2025年10月27日発表(運用開始は10月25日)、グループ会社エネ・シードが運営する太陽光発電所(エネ・シード長崎第2太陽光発電所)に蓄電池を併設して運用を開始。東芝エネルギーシステムズがアグリゲーターとして発電予測・充放電計画・市場取引を担い、GSユアサが蓄電システムとPCS(電力変換装置)の納入・保守を担当。今後は北九州市内の太陽光発電所4か所でも同様の体制を展開する予定としています。
  • 東京ガス:2026年7月15日発表、2024年に系統用蓄電池事業へ本格参入してから約2年で、高圧・特別高圧系統を合わせた計画容量が107.6万kWに達したと公表。岡山県の美作蓄電所(定格出力2.9万kW)は2028年度に商業運転開始を予定し、2030年代前半には約200万kW規模を目指すとしています。

出典:大阪ガス・伊藤忠商事・東京センチュリー「系統用蓄電池事業『千里蓄電所』への参入について」(2023年6月7日)、大阪ガス「米国ニューヨーク州・バージニア州での再エネ関連事業への参画について」(2023年6月26日)、西部ガスグループ・東芝エネルギーシステムズ・GSユアサ「太陽光発電所への蓄電池併設・運用開始について」(2025年10月27日)、東京ガス「系統用蓄電池事業の計画容量が107.6万kWに」(2026年7月15日)

東京ガスの系統用蓄電池、規模の推移 2024年 蓄電池事業に参入 自社開発や他社蓄電所の活用で展開 2026年7月 計画容量107.6万kW 美作蓄電所(岡山)は2.9万kW 2028年度に商業運転開始予定 2030年代前半 目標 約200万kW 2年間の拡大ペースの先にある数字
図:東京ガスの系統用蓄電池、規模の推移(出典:東京ガス発表・2026年7月15日)

論点① 蓄電池が担うのは、ガス火力と同じ”支え役”

なぜ、いまガス会社が蓄電池に向かうのか。答えは、電力システムが抱える課題そのものにあります。太陽光や風力は天候まかせで出力が変動し、放置すれば電力の安定供給が崩れます。この変動を埋める調整力として、これまで光が当たってきたのはガス火力でした。起動・停止が速く、出力を機動的に動かせるためです。

蓄電池は、この同じ役割を別の技術で担おうとする存在です。大阪ガスは千里蓄電所について、卸電力市場・需給調整市場・容量市場という三つの市場で取引を行い、系統の安定化に貢献する運用を行うと説明しています。放電のタイミングを市場の需給に合わせて調整することで、ガス火力が担ってきた機動的な調整という機能を、燃料を使わずに果たします。

つまりガス会社にとって、蓄電池事業は畑違いの新規事業というより、「系統を安定させる調整力を売る」という、ガス火力発電で培ってきた発想の延長線上にあります。道具が変わっても、売っているものの性格は近いのです。

論点② 入り方の規模は、会社ごとに違う

同じ蓄電池参入でも、規模と入り方は会社によって大きく異なります。

東京ガスは、自社開発・他社蓄電所の利用権獲得・最適運用サービスという複数の手段を組み合わせ、2026年7月時点で計画容量107.6万kWに到達。2030年代前半には約200万kW規模を掲げています。これは系統用蓄電池市場に単独で大きく張る戦略です。

大阪ガスは、伊藤忠商事・東京センチュリーという商社・リース会社と組んで千里蓄電所(1.1万kW)に参入し、さらに米国にも展開しています。自前で抱え込むのではなく、他社との共同事業として規模を補う形です。

西部ガスは、グループの太陽光発電所に蓄電池を併設するところから始めています。アグリゲーターやメーカーに運用・保守を委ね、まずは発電所の収益を安定させ、将来の系統用蓄電池ビジネスへの展開は「視野に入れる」という位置づけです。

蓄電池、各社の入り方は違う 大阪ガス 商社と共同 国内+米国 1.1万kW (千里蓄電所) 2023年6月 西部ガス 太陽光に 蓄電池を併設 容量非公表 運用は委託 2025年10月 東京ガス 系統用で 単独に拡大 107.6万kW (計画容量) 2026年7月 入口は違っても、系統を安定させる 調整力を売るという機能は同じ
図:大阪ガス・西部ガス・東京ガスの蓄電池参入の規模と入り方(出典:各社発表)

この違いは、事業者の全体像の章で見た「少数の大手」と「多数の地域事業者」という二層構造とも重なります。単独で100万kW級を狙えるのは体力のある大手で、地域の事業者はまず自社の既存設備(太陽光発電所)に併設するところから、確実な一歩を選んでいます。

論点③ “別腹”ではなく、本業の隣にある賭け

ここで一つ、見立てを確かめておく必要があります。蓄電池事業は、ガス会社にとって本業と無関係な「別腹」の新規事業なのか、それとも本業の隣にある延長なのか。

論点①で見たとおり、蓄電池が売っているのは「系統を安定させる調整力」であり、これはガス火力発電で培ってきた機能と性格が近いものです。東京ガスが自社開発・他社蓄電所の利用権獲得・最適運用サービスという複数の手段を組み合わせているのも、電力市場で発電・調整力を取引してきた経験の応用と見ることができます。

一方で、蓄電池とガス火力は、同じ「調整力」という役割を争う関係でもあります。再エネが拡大し、調整力の主役が蓄電池に移っていくほど、ガス火力への需要の伸びは相対的に抑えられる可能性があります。ガス会社が自ら蓄電池事業を拡大することは、長い目で見れば自社のガス火力需要の一部を自分で置き換えていく選択でもあるのです。総合エネルギー化の解説章が指摘する「量から質へ」の転換は、ここでは「燃料を売る量」から「調整力という機能を売る質」への転換として表れています。

反対から見ると

ここまでの見立てには、いくつか留保が要ります。

第一に、公表されている数字の多くは「計画」や「参画」であり、商業運転の開始はまだ先のものが目立ちます。東京ガスの美作蓄電所は2028年度の稼働予定、西部ガスの系統用蓄電池ビジネスへの展開は「視野に入れる」という表現にとどまります。看板の数字と、実際に稼働している容量の間には時間差があります。

第二に、規模の差がそのまま競争力の差になるとは限りません。西部ガスのように、まず自社の既存設備の収益を安定させるところから始める着実な進め方にも合理性があります。大きく張ることだけが正解ではありません。

第三に、海外事業(大阪ガスの米国展開)は、国内の系統用蓄電池とは制度・市場構造が異なり、同じ文脈で語ると単純化になります。容量市場の仕組みや規制環境は国によって異なるため、「蓄電池に参入している」という一点だけで両者を並べるのは慎重であるべきです。

第四に、蓄電池とガス火力の関係を「競合」と見る論点③の見立ても一面的です。再エネの変動が大きくなるほど調整力の総需要そのものが増える可能性があり、蓄電池とガス火力が互いの領域を奪い合うというより、両方の需要が同時に伸びる局面もありえます。どちらか一方が他方を置き換えると決まっているわけではありません。

仕事への問い

電力・新事業や発電事業に関わっている立場なら、自社が蓄電池事業にどこまで、どういう形で関わっているか——自社開発なのか、他社との共同なのか、委託なのか——を説明できるでしょうか。企画や経営企画に関わる立場なら、自社の中期経営計画で「電力」や「蓄電池」がどう位置づけられているか、ガス事業の延長としてか、別の柱としてか、一度確かめてみる価値があります。

保安や導管の実務に関わる立場でも、無縁ではありません。発電・蓄電の設備が増えれば、自社グループの中で保安の対象そのものが広がっていきます。営業や料金に関わる立場なら、取引先から「電気と蓄電池をまとめて相談したい」という声が来たとき、社内のどの部署が窓口になるか、答えられるでしょうか。

まとめ(3〜5行)

  • 大阪ガス(2023年6月、千里蓄電所・米国展開)、西部ガス(2025年10月、太陽光併設型)、東京ガス(2026年7月、計画容量107.6万kW・2030年代前半200万kW目標)と、ガス各社が系統用蓄電池事業に相次いで参入している
  • 蓄電池が担うのは、再エネの変動を埋める調整力という、これまでガス火力が担ってきた役割と近い機能。入り方の規模は会社の体力によって、単独拡大・共同事業・既存設備への併設と分かれる
  • 蓄電池事業は本業と無関係な新規事業ではなく、調整力という機能を軸にガス火力事業の隣に位置する賭けであり、長い目では自社のガス火力需要の一部を自ら置き換えていく可能性も持つ

※ 筆者は都市ガス事業者に勤務しています。本記事は公表情報のみに基づく個人の見解です。

この記事の一次資料(1)

  1. 東京ガス「系統用蓄電池事業の計画容量が107.6万kWに」(2026年7月15日)

記事の数字・範囲を限る言葉・増減の向き・因果は、公開前に別のAIがこれらの資料の原文と照合しています(編集と検証のしかた)。正確な判断が必要なときは、原文をご確認ください。

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