トップ / 読み解き / 社会情勢
読み解き 社会情勢 地図:電力・新事業 2026年10月16日(金) 6:00

電池ではなく、石に電気を貯めた

中部電力・東芝・新東海製紙、岩石蓄熱の実証運転を開始

約6分 実務 出典1件・自動照合
LISTENこの記事を聴く(約7分)

音声はMicrosoft Azureの合成音声です。出典と図解は下の記事でご覧ください。Spotifyで聴く・フォロー ↗

電気を貯める、というと真っ先に思い浮かぶのはリチウムイオン電池です。ところが中部電力・東芝・新東海製紙の3社が今回貯めたのは、電気そのものではなく「熱」で、容れ物は岩石でした。ガス管の外へ、仕事の種を広げる電力・新事業の話です。

① いま、何が起きているのか

中部電力・東芝・新東海製紙は2026年10月14日、静岡県島田市にある新東海製紙 島田工場で、「岩石蓄熱エネマネ設備」の実証運転を開始したと発表しました。

出典:中部電力「岩石蓄熱とエネルギーマネジメント技術を組み合わせたプラントの実証運転を開始」(2026年10月14日)

設備の熱容量は約10メガワット時級で、目安として約880世帯の1日分の電力使用量に相当するとされています。発表では、エネルギーマネジメント技術を組み合わせたこの規模の岩石蓄熱設備は国内初としていますが、根拠は「3社調べ」とのみ記載され、具体的な調査方法は示されていません。この実証は、環境省の「令和6年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されたもので、島田市とは2024年に実証推進の連携協定を結んでいます。

仕組みは次の4段階です。工場内の電力需給に応じて電気ヒーターを動かし、余った電力を熱に変えます。その熱を、岩石蓄熱材を充填した蓄熱槽(700℃級)に貯めます。エネルギーマネジメント技術が、蓄熱の状態と工場の熱需要から、蓄熱と放熱のタイミングを算出します。そのうえで蒸気発生器・電気ヒーター・送風機を自動制御し、必要な量の熱を必要な時に供給し、紙の乾燥工程で使う蒸気にします。

岩石蓄熱のしくみ ①電気ヒーターで熱に変換 工場内で余った電力を使う ②岩石蓄熱槽(700℃級)に貯める 熱容量 約10MWh級 ③エネマネ技術が放熱を算出 蓄熱の状態と工場の熱需要から判断 ④蒸気として工場に供給 紙の乾燥工程で使用
図:岩石蓄熱のしくみ(出典:中部電力「岩石蓄熱とエネルギーマネジメント技術を組み合わせたプラントの実証運転を開始」)

3社の役割も分かれています。東芝は運転計画・シミュレーション・自動制御を組み合わせた技術を担い、蓄熱槽内の温度分布を高速に予測する独自技術で運用性とCO2排出削減効果を検証します。中部電力は700℃級の蓄熱槽の構造健全性を検証するほか、岩石蓄熱の導入を広げるための市場調査を行います。新東海製紙は、工場内のバイオマス発電による電力を熱需要に応じて使い、脱炭素化を進めます。

岩石は自然素材で、リチウムイオン電池などと比べて環境負荷やコストが低く、安全性が高いとされています。発表では、具体的な実証期間や次の段階の日程は示されておらず、今後は技術の実用化に向けた取り組みを加速するとしています。

② なぜ、これが重要なのか

太陽光・風力など再生可能エネルギーの導入が増えるほど、発電量が時間帯によって大きく波打つようになります。一方で工場が蒸気を必要とするタイミングは、生産ラインの都合で決まっており、電力が安く・豊富にある時間帯とは必ずしも一致しません。この「電力と熱の需給ギャップ」を埋めるのが、今回の実証の狙いです。

埋め方として電池ではなく岩石を選んだ点が特徴です。発表では、リチウムイオン電池など従来の蓄エネルギー技術と比べ、岩石は環境負荷やコストが低く、安全性の高い技術として期待されるとしています。電気を「電気のまま」貯めるのではなく、いったん「熱」に変えて貯めるという発想の転換です。

③ だとすると、業界はこう動く

ガス会社にとって、この話は無関係ではありません。総合エネルギー化の章で触れたとおり、多くのガス会社はすでに発電事業や蓄電池事業に進み、ガス火力は再エネの波を埋める「調整電源」としての役割を担っています。岩石蓄熱は、その調整役の選択肢を増やす技術です。電池よりコストと安全管理の負担が軽いとすれば、工場やビルの脱炭素を支援するエネルギーサービスの提案に、電力でも蓄電池でもない「熱を貯める」という第三の手段が加わることになります。

自治体との連携協定を起点に実証が動いた点も見逃せません。島田市のように、地域の企業と自治体が組んで脱炭素実証を進める構図は、地域に根を張るガス会社がこれまで担ってきた役割と重なります。熱・電気・自治体連携という3つの要素が1つの実証に同時に現れたことは、業界の外からも「総合エネルギー」の担い手が増えていることを示しています。

④ 自分の仕事では、どう考えるか

法人営業やエネルギーサービスの企画に携わっているなら、工場やビルのお客様に提案してきたのは「電気を売る」か「ガスを売る」かのどちらかだったはずです。熱を貯めて必要な時に使う、という第三の選択肢が技術として現実になってきたとき、自分が担当するお客様の工場では、電力と熱の需要タイミングにどれくらいズレがあるか、確かめたことはあるでしょうか。技術開発や企画の立場なら、電池一辺倒だった蓄エネルギーの検討に、蓄熱という選択肢をどこまで織り込めているかも、問い直す価値があります。

まとめ(3行)

中部電力・東芝・新東海製紙が、岩石に熱として電気を貯める実証運転を静岡県島田市で始めました。再エネ拡大で広がる電力と熱の需給ギャップを、電池ではなく岩石で埋める試みです。ガス会社が担う「調整電源」や総合エネルギーサービスにも、新たな選択肢として関わってくるテーマです。

この記事の一次資料(1)

  1. 中部電力「岩石蓄熱とエネルギーマネジメント技術を組み合わせたプラントの実証運転を開始」(2026年10月14日)

記事の数字・範囲を限る言葉・増減の向き・因果は、公開前に別のAIがこれらの資料の原文と照合しています(編集と検証のしかた)。正確な判断が必要なときは、原文をご確認ください。

VOICE

あなたの声を聞かせてください

1タップで答えられます。集計はその場で見られます。

この話、あなたの仕事との距離は?

電気を「熱」として貯める技術、自分の仕事に関係すると思いますか?

回答は匿名で集計します。寄せられた声は、記事と解説づくりに使います。取り扱いについて

体系で理解する ─ 業界のしくみ
CH5 この記事の背景は、解説シリーズ第5章で体系的に学べます。 第5章 誰がどれだけ使うのか 基礎シリーズ|約6分 この章を読む →