二週間前、日本が買うLNGの値段は約2年半ぶりの高値をつけ、米国の値段は下がっていました。今週はその向きが逆です。北東アジアの値段は下がり、米国は上がりました。それでも、太平洋を渡る船の採算だけは変わらず開いていません。LNGを海外から買う=調達の話です。
① いま、何が起きているのか
JOGMECの週次価格動向(2026年9月28日掲載、9月21〜25日の週)が伝えている値です。
- 北東アジアのスポットLNG価格(JKM・11月受渡)は、前週末(9月18日)の27ドル前半から、9月25日には25ドル前半へ下落。週半ばの9月23日には25ドル後半までいったん下げたのち、24日に26ドル前半へ反発し、25日に再び下げた
- 下落の理由は、LNGタンカーのホルムズ海峡通航や、米国・イラン間の対話継続による中東情勢緩和への期待から、地政学的リスクプレミアムが低下したこと。加えて、北東アジアでは冬季需要に向けた調達が既に進んでおり、先に見込まれるスポット需要が限定的であることも挙げられている
- 24日の反発理由は、米国・イラン間の協議進展をめぐる不透明感の高まりと、米国産LNGのアジア向け裁定取引が「採算割れ」の状態にあること
- 欧州TTF(10月限月)は、9月18日の26.7ドルから、23日に週内最安値の24.1ドルへ。温暖な気温予測と中東情勢緩和への期待で地政学的リスクプレミアムが縮小した。24日はノルウェーのガス供給インフラでの大規模な計画メンテナンスと、別施設での計画外停止を受けて25.0ドルへ反発し、25日は24.1ドルに戻った
- 米国ヘンリーハブ(10月限月)は、9月18日の2.9ドルから、21日にいったん2.8ドル台へ下落(冬季需要の弱気な見通し)。その後24日に3.3ドルまで上昇し、25日は3.2ドル。上昇理由は、米国中南部での気温上昇予測と夏終盤の高気温による需要増加への期待、EIA在庫統計における季節的に低調な積み増し、生産量の減少
- 米国の天然ガス在庫(EIA週報)は、9月18日時点で3,351Bcf。前週比53Bcf増、前年同期比4.2%減、過去5年平均比では2.9%増
- 欧州のガス貯蔵率(AGSI+)は、9月25日時点で70.6%(前週末の69.31%から上昇)。前年同時期比14.6%減、過去5年平均比18.3%減
出典:JOGMEC「天然ガス・LNG関連情報(週次価格動向)」(2026年9月28日掲載)(同ページは週次で更新されます)
② なぜ、これが重要なのか
二週間前の記事で扱ったのは、中東情勢の緊張でJKMが約2年半ぶりの高値をつける一方、米国のHHは下がり、太平洋をまたぐ裁定取引が「閉じている」という状態でした。今回はJKMもTTFも下げ、地政学的リスクプレミアムはむしろ縮小しています。素直に読めば「日本にとって買いやすい方向に動いた」週のはずです。
ところが、同じ週のレポートは米国産LNGのアジア向け裁定について、二週間前より踏み込んだ言葉を使っています。「閉じている」ではなく「採算割れ」です。理由は単純で、JKMが下がったのと同時に、比べる相手のHHが上がったからです。裁定取引が成り立つには、JKMがHHに液化・輸送のコストを乗せた水準より十分に高い必要があります。JKMが2ドル下がり、HHが0.3〜0.4ドル上がれば、その差はさらに縮みます。北東アジアの買い値が下がったことと、太平洋を渡る船が出やすくなることは、別の話だということです(LNG市場のしくみの解説章)。
③ だとすると、業界はこう動く
まず、スポット調達の現場では、JKMの見出し値だけを見ていると判断を誤りかねません。今週のように「JKMが下がった」というニュースが流れても、それが米国発カーゴの調達しやすさに直結するとは限らず、HHの動きと合わせて見る必要があります。
次に、欧州側の供給の揺れです。TTFはノルウェーの計画・計画外停止だけで24.1ドルから25.0ドルへ反発しました。北東アジアの冬季調達が進んで需要が落ち着いている今の局面では、こうした供給側の小さな変化が、値動きに出やすい状態が続きます。
最後に、地政学的リスクプレミアムの動きの速さです。中東情勢の緊張が二週間で「悪化して高値」から「緩和して下落」まで振れました。社内でLNG価格の水準を説明するとき、ある一日の値を切り取って語ると、数日後には前提が変わっている可能性があります。
④ 自分の仕事では、どう考えるか
調達や需給、企画の仕事でLNGや燃料費の動きに触れるなら、最後にJOGMECの週次レポートを自分で開いたのはいつでしょうか。社内で回ってくる「LNGが上がった/下がった」という一言は、たいてい一日か一週間のどこかを切り取ったものです。それが上向きの週の話なのか下向きの週の話なのか、そして裁定取引のような別の指標と矛盾していないか——数字を人に説明する前に、自分で一次情報を確かめる癖があるかどうかを、今週の反転は問いかけています。
まとめ(3行)
- JKM・TTFは9月18〜25日の週に下落(地政学的リスクプレミアムの縮小が要因)、米国HHは同じ週に上昇(在庫の積み増しが季節的に低調なことなどが要因)
- 二週間前は「JKM高・HH安」で裁定が「閉じている」状態だったが、今回は「JKM安・HH高」でも裁定は「採算割れ」とより踏み込んだ表現になった。JKMの下落と裁定の改善は別の話
- 冬季調達が進んだ北東アジアは当面のスポット需要が限定的。一方の欧州はノルウェーの供給施設の計画・計画外停止だけで値が動いており、供給側の小さな変化が値動きに出やすい局面が続く
この記事の一次資料(1)
記事の数字・範囲を限る言葉・増減の向き・因果は、公開前に別のAIがこれらの資料の原文と照合しています(編集と検証のしかた)。正確な判断が必要なときは、原文をご確認ください。
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